東京から他県に気兼ねなく温泉探しに行けるようにはなかなかなりませんね。
今シーズンの温泉探索はいまだに本格的にスタート出来ていない。が、しかし!温泉探索は現地に行くだけが全てではない。この活動では「どこに温泉が湧いていそうか」を探す事前準備が何よりも肝心だ。温泉探索はリモート作業に向いた活動なのである。
そんな中、リモート調査が実を結び活動に進捗があった。というか、未発見のものではなかったが源泉を発見することができた。それも二ヶ所も!それも含め4月以降の活動報告をしたい。
死なないために装備を強化しました
ところで、山登りはRPGゲームに似ている。
これは山登り界隈ではたまに聞く表現で個人的にもそう感じる。難度の低いマップから始めて経験値を貯めていき、徐々に難度の高い場所へ向かっていく。その合間には平地でトレーニングしながらレベルを上げるとともにお金を貯めて、服や靴など必要な装備を買い揃えていく。ソロでもいいが、パーティーを組んだほうが楽にもなるだろう。宿に泊まれば本当に体力が回復する。行こうと思えばどこでも行けるリアルにオープンワールドな冒険だ。
思うように活動できない期間が続いているが、その日々を無為に過ごすわけにはいかないので、4月以降はランニングや筋トレを続けステータス上げに集中した。そのおかげで10代のころを超えて人生で一番運動能力が高くなってしまった。はよ山に行かせてくれよ。
運動能力を上げるとともに、温泉探しで死なないための装備もさらに整えた。源泉探索や野湯探訪は登山道だけを歩く山登りよりも遥かにイレギュラーなアクティビティのため「死なない」に、より一層気を配る必要がある。硫化水素探知機、ガスマスク、沢用シューズ、GPSアプリ、このほか通常登山に必要なもろもろ、撮影機材、食料&飲料…と荷物はいつもパンパンだ。
山岳遭難の最大の原因である「道迷い」はGPSアプリを正しく使い、モバイルバッテリーも複数携帯し、さらに紙の地図と方位磁石を携帯しておくことで基本的にはリスクをほぼ無くすことができる。山で最大の危険をノーリスクにできるなんて最高なので、温泉を探してない人も山では絶対にGPSは装備しよう。
そして温泉探しならではの危険、硫化水素。これもH2Sが空気より重く下に溜まるという特性を理解した上で、硫化水素探知機→ガスマスクのコンボでほぼ無力化できる。
「道迷い」「有毒ガス」はほぼ無力化できているが、あとは怪我によって動けなくなることへの対策がもう少し出来るのではと思っていた。もちろん、応急処置のできるキットや非常食は山に行く上ではマスト。そのほかに何が出来るか?死ぬ確率をさらに下げるために以下を導入した。
①ココヘリ
②熊よけスプレー
それぞれ紹介しよう。
まずは「ココヘリ」。
これは遭難した際の位置探知&ヘリ捜索サービスだ。山岳遭難の理由として道迷いの次に多いのは「転倒」と「滑落」。つまり負傷によって動けなくなることだ。岩場での三点保持や正しい山の歩き方を身につけるなどスキルアップが大前提だが、それでも怪我は起こる。ただの道迷いと違って、滑落して人のいない場所で動けなくなったら自力での脱出は厳しい。
そんなどうしようもなくなった時に備えて自分の位置を知らせる発信器を持っておくと、生還確率を大幅に高められる。「死んでない限り助かる」と言っても過言ではない。こういうの待ってた。戦闘不能時に自動的に発動して助かる、というのはまるっきり「リレイズ」である。やっぱり山登りはゲームだった。
そして②熊よけスプレーだ。
これは説明不要だろうが、万が一、熊に遭遇してしまったときに撃退するための装備である。エンカウントすると一発アウトの可能性もある生き物なので出来れば対策はあったほうがいい。
熊対策で最も一般的なのは「熊鈴」だろう。山に行く人なら持っている人も多い。
熊鈴に関しては「ゆで卵は1日に何個食べていいのか論」と同じように「熊鈴、意味ある説」「熊鈴、意味ない説」がいったり来たりしていてややこしいのだが、わざわざ人に好き好んで近寄って来る熊はそこまで多くないと思うので基本的には熊鈴にも一定の効果はあるのだろう。しかし、熊鈴というのは虫除けグッズとは違い、熊が嫌がる何かを発している訳ではなく、熊にこちらの位置を知らせてバッタリ出くわすことを避けるためのものだ。なので被害を確実に抑えられるものではない。熊が基本「陰キャ」だという前提に基づいているのだ。失礼な話である。「森のくまさん」のような陽キャな熊には通じないだろう。
(「森のくまさん」がまさかの3Dアニメになっていたので置いておきます。)
森のくまさん3D | キッズソング | 童謡 | レッド キャットリーディング
そこでさらに踏み込んだ熊対策として熊スプレーを購入した。熊スプレーにも何種類かあるのでどれを買うかネットで検討していたのだが、ここで「ある事実」が判明する。これは熊スプレーを実際に買おうとした者でないと知らない貴重な知識なので皆様にお伝えしておきたい。
それは「ヒグマ用のスプレーを本州で使用してはならない」というルールだ。
熊よけスプレー 中型モデル 熊・猪・猿・野犬対応 B-609|KSP
前提として日本では本州にはツキノワグマが、北海道にはヒグマが生息している(2種の生息域は被っていない)。ただ、ヒグマはツキノワグマに比べてずっと大型でなのでより撃退するには強力な成分が必要になる。なのでヒグマ用スプレーの強力な成分は人にとってはもちろん、本州のツキノワグマにとっても危険なので使わないでください、ということだ。
https://www.e-mot.co.jp/naturalspirit/product.asp?id=95
人ばかりか、ツキノワグマの身さえ案じられてしまうくらい強力なヒグマ用スプレー。どんだけの威力なのか。確かに「三毛別羆事件」や「福大ワンゲル部」など歴史に名を残す大規模な熊被害はヒグマだし、遭遇した際の死亡率もヒグマの方が群を抜いて高い。
【熊の人身被害件数】https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/injury-qe.pdf
この源泉探索活動は本州がメインなので今回はツキノワグマをはじめとした野生動物に使えるものを購入した。ケースに入れてザックの外に装着しておくことにする。
リモート源泉探索&そして那須で源泉を発見!!
今シーズンはこういう状況なので車も持っていない僕としては、なかなか県外に出かけることができていない。そんな中、6月に一度だけ山に行くことが出来た。自粛しっぱなしだったことの気分転換、そして自粛中にリモートで探しまくって突き止めた「めちゃくちゃ怪しいスポット」を確かめるためだ。
向かった先は那須・茶臼岳。
昨年、茶臼岳にある3ヶ所の野湯を巡ったが時間の都合で登頂を果たすことは出来なかったので、きちんと登ってみたいと思っていたのだ。
1つ気になっていたのが、この状況下でみなさんコロナ対策と登山にどう折り合いをつけて向き合っているのか、ということ。現地で様子を見ていると、ロープウェーの中まではやはりみなさんマスクをつけていたが、歩き出すとともに外しているようだった。登山中でもマスクを着けているのは体感で5%ほど。この山でのディスタンスと換気の良さを考えれば当然だろう。
この日、本当に久しぶりにマスクなしで外を出歩いたのだが、山にいるとコロナ以前の日常が戻ってきたように感じられた。街にこの日常が戻ってくるまでにはどれくらいかかるのか分からないが「そうそうこれが日常だったんだよな」と忘れかけていた日常を少し取り戻すことが出来た。
変わったことと言えばすれ違いの挨拶が自粛がちになっているだろうか。挨拶の割合が減ってアイコンタクトに、もしくは少し遠目からの挨拶になっている気がする。5・6月は「山に登ってもいいのか問題」が議論されていたが、みんなうまくコロナ対策と登山を両立させている。
そして今シーズン始めた新活動「山の空気缶コレクト」も行った。
↓(山の空気を缶詰に詰めて集めるという活動です)
さあ、登山はこれくらいにして温泉探しの話をしよう。
今回、現地で確認を行うスポットは茶臼岳の山頂近くではなく、ロープウェイ駅にも程近いエリアなのでまずは山を降りていく。その間に自粛期間に行ったリモートでの温泉探索活動を紹介しよう。
リモートでの温泉探索とはつまり、衛星画像とのにらめっこである。源泉探索の半分はこのリモート作業にあると言っても過言ではない。それくらい非常に重要な作業だ。これまでも探索の前には必ずこの作業を行ってきたのだが、この春はいかんせん時間が山ほどあったために衛星画像を見つめまくっていた。
それだけではない。探し方も改良した。というのも衛星画像での温泉探しには1つ問題があって、怪しいポイントを見つけたとしても、使用している衛星画像だけだと正確な場所が分かりづらいのだ。
なので現地には行ったものの、探すべき正確なポイントに実際は辿り着けていなかった、ということがこれまでにもあった。大雑把な位置しか掴むことができていなかったが、温泉探索は「衛星画像でのリモート探索(リモートセンシング)」と「現地を歩いての探索(フィールドワーク)」がガッチリ噛み合わないと成立しないのだ。そこで人工衛星をもう一つ使うことにした。
僕は一介の会社員だが、人工衛星を追加で導入しようと思ったら簡単にできる。すごい時代である。今まで温泉探しのための「サーモ画像」として使ってきたのは人工衛星Landsat-5&7(ランドサット5号と7号)の撮影した画像である。ランドサットはNASAが打ち上げている地球観測衛星シリーズで1号が1972年に打ち上げられてから様々な観測データを地球に送り続けている。新たにこの温泉探索活動に導入するのはその最新型(2020年7月現在)、ランドサット8号である。
「ランドサット8号」を導入する、と大仰に伝えたが、要するに「Google Earth」である。もともとグーグルアースはランドサット7号の画像を使用してきたが、2013年にランドサット8号が打ち上げられてからはより高画質・高精細な8号の画像が使われるようになった。その画像をさらに「Google Earth Engine」で解析することによりあの精密な衛星画像が生まれている。大人のみなさんは、もっと画質が粗かった頃のグーグルアースも覚えているだろう。
「Googleマップ」「Google Earth」の衛星画像が高精細化 -INTERNET Watch
ではどうするかというと、今まで使っていたランドサット5号・7号が捉えた衛星サーモ画像に、この8号が捉えた画像(グーグルアース)を重ね合わせることでより精度の高い地図にするのだ。
まあこんな作業くらいやっておけよ、という話なのだが普段の生活ではこのコツコツとした作業がなかなか面倒なので出来ていなかった。それがこのコロナ自粛のおかげで捗る捗る。4・5月の間、家でチクチクと作業を続けていた。そしてやってみて分かったのだが、以外に時間がかかる。7号と8号で地球の丸みの補正方法が違うのか、画像の一部を合わせて重ねると画像の端ではズレが生じてしまうので何枚も重ねないとならない。
そして以前のみなかみ町での温泉探索の回でも解説したが、コンクリートに覆われていたり、地表がむき出しになっている場所もサーモ画像では赤く反応してしまっているのでそうではなく、森の中なのになぜか赤く反応している不思議な場所を探していく。
そうして散々探した結果、非常に怪しい場所が見つかった。それが先ほどの那須ロープウェイ山麓駅の近くの2ヶ所である。
茶臼岳の山頂は岩だらけで植物がないのだが、オレンジ色でポイントした2ヶ所はグーグルアースで見る限り木々に覆われている。それなのにサーモ画像で見るとしっかりと反応があった。しかも、北側のポイントは余笹川という川に面していて水気もある。非常に怪しい!
冒頭でもお伝えしたが、結論を言うと、この2ヶ所それぞれで源泉が湧いていた!
ただ2つのポイントは舗装されていない林道沿いにあるのだが、片方の入り口からは普通に入れたが、もう片方の入り口には車の立ち入りを防ぐようにロープが貼られていた。2つの源泉は近くの温泉で使用するために管理されているようだったので、現地に行って写真も撮ったのだがここでそれを詳しく紹介するのは控えておくことにする。硫化水素濃度も高く、あまり人が立ち入るべき場所でもないだろう。
大丸温泉は「那須七湯」に数えられ、那須温泉郷を構成する主要な温泉地の1つとして有名だが、源泉の場所は公開されていない。旅館が並ぶ場所より少し離れた山中にあったのだ。
そして北側の源泉「奥の沢温泉」に関してはネット上にもほとんど情報がない源泉だ。しかし源泉の近くには記念碑のようなものが建っており、奥の沢温泉という名前もその記念碑に書いてあったものだ。茶臼岳中腹の旅館やゴルフ上に引かれているという。サーモ画像で探し当てなければ絶対に見つかっていない源泉だ。
詳しくお伝え出来なくて申し訳ないが、2ヶ所とも蒸気がもうもうと立ち昇る非常に高温の源泉で見つけた時にはとんでもなく興奮した。これまで那須で入った野湯はどれもぬるかったが、さすがは山頂付近からも噴気が立ち上る茶臼岳。温泉ポテンシャルが高いぜ。
想像してみて欲しい。山に行けないこの自粛期間中、やり方を改良して精度を高めた上で散々パソコン画面を睨み続けた末に探しあてた「怪しい場所」。その2ヶ所中、2ヶ所で温泉が湧いていたのだ!やばい。しかも、である。この期間に見つけた「怪しい」場所はここだけではない。ここと同じくらい怪しい場所がもっと何ヶ所もあるのだ。ヤバイ!!近いうちに温泉が見つかってしまう…!!僕の夢である前人未到温泉の発見、そして「史上一番風呂」入浴は時間の問題な気がしていた。心の準備をしておかないとならない。
歴史的瞬間をお伝えできる日までもう少しお待ちください。(はよ山にに行かせてくれ!)