-----追記-----
こちらの研究記事を、なんと「デイリーポータルZ」にも掲載して頂きました!
(内容は同じです。)
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涙というのはとても美しい。親しい人物の涙ならばよりいっそうだ。人間の体液の中で「美しい」という形容詞をつけるのにふさわしい唯一の液体ではないだろうか。そんな美しい涙をどうにか後世に残しておきたい、そう思い始まった大人の自由研究。『100日間』と言いつつ、実際はそんなもんじゃない時間がかかってしまったが、代わりに世の中の誰も知らないかもしれない&全く役に立たない知見を得た試行錯誤の記録です。
なんか、もったいなくないか?
突然だが0歳の娘がいる。
子育てをしていく中で子どもが日々成長していく姿を見るのは想像していた以上に面白い。エンターテインメントだ。その育児生活の中で興味を惹かれたものがあった。
娘の涙である。
毎日、娘の目から染み出しては溢れて頬を伝う。これまでの人生で人の涙をマジマジと見る経験はなかったのでとても興味深い。もともと僕は趣向として水が湧き出る所全般が好きなとこがあるのだが、新しい扉を開いてしまった。そして目から溢れる水の粒を日々眺めるにつれ、こう思うようになってきた。
「これもったいなくないか?」と。
毎日、目から生産されているその液体は見た目にも美しい。ただ、生み出されてからものの数秒で布的なものに吸収され消えていく。これを見て見ぬふりしていていいのだろうか、そう思ったのだ。
そこでこの娘の涙を何か”形”として残せないかと思い立った。『涙が形として残る』その現象を僕は1つだけ知っている。「氷泪石」だ。
(知らない人は検索してみてください Google検索「氷泪石」)
「氷泪石(ひるいせき)」とは漫画・幽遊白書に出てくる宝石である。魔界に住む氷女(こおりめ)という種族が流した涙が結晶化したもので、飛影や妹の雪菜にとっては母親の形見でもあるキーアイテムとして作中に登場する。これを娘の涙で作ろうと思う。そう思い立ったのは2021年3月ごろ。どうやって涙を氷泪石にするかはやりながら考えるとして、まずは素材がないと始まらない。こうして「娘の涙を集める」という活動が始まった。
氷泪石の【原料】を収集する活動「#娘の涙を集めたい」
涙を集めるという作業にはネットを探してもノウハウが載っていなかった。なのでひとまず東急ハンズに行き科学実験用品を買ってきた。相変わらず謎な需要にも応えてくれる店である。
娘が泣いたら当然あやして機嫌を取るわけだが、それでも太刀打ちが出来ない瞬間もある。そういう時が涙採取の時間だ。今後「涙を集めたい!」という人が出てきた時のために涙採取のポイントをここで紹介しよう。
涙の鮮度を考えるとできるだけ目からこぼれ落ちてすぐを吸い上げたいところだが、赤子はなぜか不意に頭を振るので目の近くにピペットを近づけるのは危険である。なので目尻を通り過ぎてこめかみや頬に涙が伝うまで待ってから採取するのがいい。さらに採取する道具だがピペットよりもいい道具があった。それがこちら。
収集容器の蓋部分がスポイトになった「スポイト瓶」。こんな便利な道具があるとは。ピペットは動く対象から液体を採取することを想定しては作られていないので、長いしデカい。一方このスポイト瓶のスポイトは短いし小さい。少量の液体を扱うのに向いている。さらに保存容器の蓋を開けると同時に採取する道具を取り出せるという効率的な採取道具である。これもハンズの実験用品コーナーで購入できるので活用してほしい。
こうして涙採取の日々が幕を開けた。
涙を集めるという活動には子育てにおいて精神的にもメリットがある。生まれて最初の数ヶ月は赤子がしょっちゅう泣くので段々と気がげんなりしてくるものだが、涙を集めていると「チャンスきた!」と思えるようになる。子どもが泣いた時の精神的ダメージが半減されるのだ。ピンチをチャンスに変える天才的なアイデアを生み出してしまったかもしれない。ただしどこかで採取を止めないと延々と泣き続けてしまうので区切りが必要だ。
涙収集のためのガイドライン作り
ちなみに涙を集め出したのはまだ春先だったのもあって最初は収集容器をその辺に置いて保管していたのだが、素晴らしい透明度を見せていた保管容器の中の涙が若干濁ってきてしまい途中から冷蔵庫で保管し始めた。
涙の原料は血液のはずである。普通に考えて常温保存はまずい。目から出てすぐに採取しているとはいえ、頬には雑菌もいるだろう。常温保存はまずい。みんなは最初から冷蔵庫で保管しよう。
さらに涙を集め始めて1ヶ月ほど経ったころ、もう1つの問題に気がついた。便利だと思って使っていたこのスポイト瓶だが容器の中に一定以上の液体があると、スポイトの先端が常に液体に浸かっていることになる(上記画像参照)。涙採取は1粒の涙という非常に少量の液体を扱う繊細な作業なのでスポイトの先端が濡れていると支障があるのだ。それに衛生的にも問題がある。今更の気づきだがこれを改善するためにやはりスポイトと容器は分けることにした。あと、スポイトはミルトンで消毒も行う。
どれだけ涙を集めるか決めずに活動を始めてしまったが、ひとまずこの10ml容器をいっぱいにすることを目標とすることにした。涙1滴は調べる限り0.05mlらしい。頬に残ってしまう分とスポイトに残ってしまう分のロスを考慮すると涙1粒あたり0.03mlほど採取出来ているとしよう。そうすると10ml集めるには333粒の涙を集める必要がある。
涙の雨季と乾季
娘は夕方になると必ず泣くのでその時が涙を採取するチャンスである。子どもが生まれてから初めて知ったのだが「黄昏(たそがれ)泣き」というらしい。朝でもなく、昼でも夜でもない。哀愁を感じさせる時間「黄昏」に泣くというのが非常に風流である。この黄昏泣きのせいで(おかげで)涙の収穫には困らなかった。
ただ誤算があった。黄昏泣きは成長とともに終わるのである。生後半年を越えたくらいで夕方になっても泣かなくなってしまった。そうなの!?もちろん1日あればどこかでは泣くのだがあやせばすぐに泣き止む。黄昏泣きのようにどうやっても泣き止まないという状況がないので涙を採取するチャンスがない。いや泣かないのはとても嬉しいことなのだが、この活動の上では非常に困る。この頃から採取スピードが一気に落ちていくこととなる。
そうしてほとんど涙を獲れない日々がしばらく続くのだが、そこで悟った。もうこれは10mlは無理だと。10mlというのはキリがいいと思っただけで、その量の涙を集めることにさほど意味があるわけではない。ここは次に進むために当初の目標は捨てて「100日間涙を集める」というゴールを再設定することにした。研究はトライ&エラーの連続である。
そうして100日間せっせと集め続けた娘の涙がこちら。
容器の重さをのぞいて重量を計ると4.3g、つまり4.3ml。これは涙143粒分にあたる。世の中にこうやって容器に入れられて保管されているまとまった量の涙があるのだろうか。研究機関にはあるのかもしれないが、ともかくFFのエリクサーよりも希少な液体と言えるだろう。
さてこれをどうやって氷泪石に加工するか。本当なら結晶として残したいところだが涙に溶け込んでいる塩分などの成分を結晶化するには量が圧倒的に足りないだろう。何より結晶だとあのキラキラ&プルプルした”涙感”が損なわれてしまう。涙のクリアで透き通った潤い感を残したまま「氷泪石化」出来ないだろうか、と加工方法を考えた。
では制作に移りたい。
突然やってきた絶望の瞬間
氷泪石の制作を実行に移す前、この貴重な涙を無駄にしないよう普通の水を材料に氷泪石の試作を何度も重ねていた。涙は100日間かけて集めた原料なのだ。慎重にもなる。氷泪石の制作方法にメドがつき、いよいよ今日、実行に移そう!・・・と思った矢先の出来事だった。僕の身に悪夢のような事件が起こった。
集めた娘の涙は綺麗だがそうは言っても、もともとは血液。栄養分も豊富なはずで細菌が繁殖しているとまずいので、まずは下処理として熱湯で殺菌消毒を行うことにした。この「まずは」がマズかった。高温で消毒処置をした涙はこうなった。
夢であってほしい。
目の前の出来事が信じられない。なぜこうなってしまったのか。涙を美しい氷泪石として残すにはクリアであることが絶対に必要である。クリアでなければ氷泪石を作る意味がないのだ。100日間の努力が…。
異変は涙を消毒するため湯にかけて数秒後に起こった。
この時点では「涙に含まれていた不純物が熱で凝固したのかな」と思っていた。しかしさらに5秒後、取り返しのつかない事態になっていることが見てとれた。
液の上部を漂っていた白いフワフワはまるで生きて動いているかのように液の下部にもシュッと体を広げ、あっという間に全体を覆った。まるでアメーバが全体を侵食するかのように。「あっ、あっ、」とパニクっている間に目の前で約150粒分の娘の涙は白くなった。
え????涙って加熱したら白くなんの?そんな情報、ネットのどこにもなかったし誰も教えてくれなかった。想像するに、卵の白身が目玉焼きにすることで透明から白くなるように、熱することで涙内のタンパク質が変性し白濁した?調べてみると涙液中にはやはりタンパク質が含まれているらしい。うん、多分そうだな。でもこれからどうしたらいいの?ひとまず高鳴る心臓の鼓動を抑えつつ、一旦冷蔵庫に入れて一晩待ってみることにした。まあ落ち着け落ち着け、置いておけば白濁が沈殿してまた透明になったりするんでしょ?
ならなかった。底に少しだけ白いものが塊で沈んでいるようだが全体は白いままだ。ここから一度凍らせてから解凍してみたり、さらに数日冷蔵庫に保管してみたりしたことで沈殿量は増えたが最終的にはこれ以上沈殿は進まないであろう、という状態に落ち着いた。どう考えても再びあのクリアに澄んでいた涙に戻ることはなさそうだ。
こうなったらやることは1つ。もう一度涙を集めるしかない。再び同じ量を集めるのはさすがに厳しいが、氷泪石作りに必要最低限の量の涙をもう一度集めていくことにした。研究というのはトライ&エラーの連続である。
また0からの涙採集
そうして再び採取から始めることになったのだが、そういえばこの活動を知った方から面白い情報を教えてもらった。「涙を入れる容器」というものが世の中には存在するというのだ。それが『涙壺』である。
葬儀の時に流れた涙を薬の材料として使うために集めたり、戦場に行った夫を待つ女が涙を入れるために使ったとか、世界各地にあるらしい。涙を特別な液体だと考える風習はやはりいろんな所であったようだ。そしてこの写真の涙壺の形状は涙を集めるための合理的な形をしていてとても興味を惹かれる。何かをするのに特化した器具というのは美しいものである。
それはともかく再び涙の収集が始まった。以前、活動をスタートした時期に比べて泣く頻度は非常に少なくなったが、代わりに『トヨタのアクアのCMが流れると必ず泣く期』にうまいこと入ったためにそれを利用してうまく稼ぐことができた。どんなにご機嫌でもこのCMが流れた瞬間に泣く。「赤ちゃんが泣き止む曲」は反町隆史さんの「POISON」やタケモトピアノなどが知られているが、その逆もあるようだ。そんなに嫌なら見なきゃいいと思うが、アクアのCMが流れた瞬間に顔をテレビに向けて凝視しながら泣いていまうのだ。皆さんも試してみてほしい。
↓これです↓ 曲はSUPERCARの「Strobolights」をyuiがカバー
娘の涙で「氷泪石」を作るには
活動開始から150日と少し、再び迎えた氷泪石の作成当日。今度は絶対に失敗できない。それに涙の量も正直なところ足りるかどうか非常に心配なほどしか集まっていない。ロスを最小限に抑えて作っていきたい。
今回の氷泪石づくりだが工程自体は簡単である。まずは涙に薬品を溶かしていく。
・・・「涙に薬品を溶かす」というワード、こう自分で打ってみるとすごい文字面である。マッドサイエンティスト感というか黒魔術感というか。
この時に溶かすホウ砂は液体の10分の1でいい。つまり水1ml(1mg)に対し0.1g溶かすわけだが今回、涙は0.6mlしか集まっていなかった。その10分の1のホウ砂となると0.06gである。そんな細かい重量を手持ちのキッチンスケールでは計測することができない。量が少ないとこうして色々と支障が出るてくるのだ。まあホウ砂の正確な量が重要なわけではなく、飽和させることが重要なので溶けなかった部分は無視すればいいはずだ。
これでホウ砂が飽和濃度まで溶けた涙が完成である。ホウ砂が出てきた時点でわかる人にはわかるかとは思うが、これはいわゆる「スライム」の作り方の第一工程である。つまり現在作っているのは「涙を材料としたスライム」である。なるべく涙のクリアな質感をそのままにベタっとしないスライムを再現するためにホウ砂濃度の高い涙が必要なのである。そしてもう1つの重要な材料が「液体のり」である。
YouTubeでいろいろなスライム作り動画を見た結果、このフエキ「オーグルー」の補充用パックが透明度が高くてコスパも良く、クリアなスライム作りに適しているという知見を得た。本来のりの性能になんの関係もない「透明度の高さ」がスライム作り界隈で高評価につながるとは、のりメーカーサイドも驚いているだろう。
ここからは意外にも力作業である。液体のりにホウ砂入りの涙を吹き付けながら混ぜていく。ホウ砂入り涙が液体のりに付くと、のりが固まっていく。霧吹きのようなスプレーボトルを使っているのは液体のりに満遍なくホウ砂を行き渡らせるのに便利だからだYouTubeの知恵、ありがとう。
吹き付ける水分(今回は涙)の量が少ないほどハードなスライムができる。なのでホウ砂濃度が高いことが重要だ。涙を吹き付けるほどに液体のりは徐々に徐々に、固さを増し気泡で白く泡立っていく。一気に大量に吹き付けると固さにムラが出るので要注意である。作業後半は液体のりがかなり粘り気を増していくのでめちゃくちゃ腕に来る。思いっきり混ぜたあと、新たに涙を吹き付ける前に一呼吸入れながらやるといい。
吹き付けと混ぜを繰り返していくと最初は容器にべったりと張り付いていたのりが段々とまとまりができて1つの塊になってくる。完成が近い。ここからは少しの吹き付けで一気に固さが増すのでより慎重に少しずつ吹き付けるのが重要である。今回は「柔らかめ」と「固め」2種類を作った。より涙の質感に近いものを完成としたいと思う。
この時点ではかき混ぜた卵白のように気泡の入った白い塊であるが、ここから時間をかけて気泡を抜いていく。気泡の方がのりより軽いので置いておくだけで少しずつ上に上に気泡が移動して勝手に抜けていくのだ。ここでしっかり時間をかけることがクリアな氷泪石を作る重要なポイントである。
これまでの試作結果によると固さにもよるが、気泡が抜け切るまで2週間はかかるはずなので冷蔵庫の隅にそっと寝ておいてもらおう。その間に別のやり方でもう1つの氷泪石(氷泪石part2)を作ってみたいと思う。材料はあの惨劇で白くなってしまった涙である。
もう1つの氷泪石作成方法
冷蔵庫にずっと置いておいたら知らないうちに沈殿がもっと進んで息を吹き返している!実は先程の氷泪石(part1)作りにおいて途中で吹き付ける涙が足りなくなってしまい、こちらの涙も一部使用していた。それでもまだこんなにある。本当はこの氷泪石part2の製作にこそクリアな涙が必要なのだ。真っ白になってしまった時は絶望したが、なんとか持ち直してクリアになってくれてありがとう。この涙でもう1パターン作っていく。
使用するのは「乳酸カルシウム/C₆H₁₀CaO₆」と「アルギン酸ナトリウム/(NaC6H7O6)n」という2つの薬品。氷泪石part1で使用した「ホウ砂」がある程度の毒性を持つのに対し、乳酸カルシウムもアルギン酸ナトリウムも食品に使われるものなのでより安心である。材料はこの2つの薬品と涙と水、つまり氷泪石part2は「食べられる氷泪石」なのである。(涙であることに目をつむれば)
まずは涙にアルギン酸ナトリウムを溶かすのだが、本来の分量は大体【溶液200mlに対しアルギン酸ナトリウム1g】である。今回は溶かす涙が残り3mlしかないので必要なアルギン酸ナトリウムは0.015g。またもやそんな少量を計る術がないので、なんとなくこれくらいだろうという量を入れることにする。
乳酸カルシウムを水に溶かした水溶液を作れば準備は完了。
氷泪石part1では液体のりを固める”つなぎ”の役目に涙を使用した。ただその場合、主成分は「液体のり」だ。しかし、part2では涙をそのまま氷泪石にしてしまう。涙に溶けたアルギン酸ナトリウムと乳酸カルシウムが反応して涙液の周囲にアルギン酸カルシウムの<殻>が出来上がるという寸法だ。
ついに氷泪石の完成!
これはいわゆる「人工イクラ」の作成方法を利用している。スポイトではなく、おたまなどで大量に大きく作ることで「つかめる水」と呼ばれるものを作ることができる。これは手軽でインパクトのある不思議科学実験として知られている。ただこれを『涙で作る』というのは世界初の試みではなないだろうか。それでは氷泪石part2を作ってみよう。
着水後、涙はすぐに水面へ浮かび上がりプカプカとボウルの中で漂っていた。念の為に”殻”がしっかりできるよう、ダメ押しで涙にパチャパチャとボウルの中の乳酸カルシウム入り水を手でかけてみた。さあどうだ。意を決して手で掬い上げてみよう。
これが涙をそのまま殻に閉じ込めることで錬成した「氷泪石part2」である。
めちゃくちゃ氷泪石!思ったよりもすごい氷泪石なんですけど!完成度高くない!?ちょっと感動して声が出てしまった。嬉しい。涙のクリアな透明感そのまま、固体にすることができた。
実はボウルに落とす前、涙を吸う際にスポイト内部に空気が入ってしまっていた。「やばいな」と思いつつもどうしても空気が抜けないのでそのまま落としてしまったのが、案の定、空気の入ったシャボン玉のような形で固まってしまった。その失敗が逆に功を奏してまんまるクリアな「THE 氷涙石」が出来上がった。「幽遊白書」に出てくるホンモノの氷泪石もこういう球体なので再現度もかなり高い。
正直もうこれで満足くらいの出来栄えであるが、こっちの原材料である涙はもう少しあるのでもう何滴か垂らして作っていこう。今度は空気が入らないように、そしてもう少し低い所から落としてみた。
そして出来た氷泪石がこちら。
めちゃくちゃうまくいった。
本来の形とは異なるが「これこそ氷泪石」といえる涙の形、もっと言えばティアドロップ型の氷泪石が完成した。幽白をよく知らない人にとっては”涙を使って作られた宝石”とはこれを想像するであろう、ジャスト氷泪石。涙に溶かしたアルギン酸ナトリウムは海藻に含まれるぬるぬる成分なのだが、その量が少し多めだったことで粘性が高まり落ちていく時にヌルッとしていた。落とした高さも低かったことで滴の型が壊れることなく固まり、このようなティアドロップ型の氷泪石が出来たのである。天才かもしれない。
いやいや結構、満足した。
さて、part2を楽しんだところで氷泪石part1の製作に戻ろう。「液体のりを涙で固める」というマッドな所業から気泡が抜けるのを待つこと3週間。思ったより1週間長くかかった。娘の涙を集め始めてから数えれば約170日目のことである。長かった。冷蔵庫の片隅に保管されていた氷泪石part1の様子がこちら。
非常にクリアな涙スライムがうまく出来上がった。だが問題はこの涙スライムを氷泪石にきちんと成形できるかである。「柔らかめ」「固め」それぞれ確かめていこう。
さて、まずは「柔らかめ」だが・・・。
すごい綺麗。綺麗だけどこれは氷泪石じゃない。透明なスライムである。球形に成形できるような固さでもないし、粘度が高すぎてゴム手袋にベタベタにくっついてしまう。しかしこんなこともあろうかと「固め」を用意しているのだ。そっちが本命である。どれどれ…
悪くない。さっきのはどちらかというと”固めな液体”であったが、こっちは”柔らかい固体”くらいの感じはある。ただ、正直こちらも固さは「水飴」くらいでずっとその形を保っていられる訳ではないようだ。
もっとホウ砂入りの涙を多く吹き付ける必要があるのか、それとももっと根本的な作り方の見直しが必要なのか、こちらの製法での氷泪石はまだ改良の余地があるようだ。
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娘の涙は二度と涙を集めることはできない
紆余曲折あってようやく実を結んだ、娘の涙での氷泪石作り。現在2歳になった娘は、もはや上を向いて泣くことはなくなってしまった。もう涙を集めることはできないが、この氷泪石にはあの頃の100日間が閉じ込められている。成功した氷泪石は娘が大きくなったら見せてみようか。
また参考にしたい人はいないと思いますが、今回の氷泪石の作り方は動画でも解説しています。見どころは100日間かけて集めた涙が真っ白に変わる悪夢の瞬間。