前人未到温泉

秘湯どころじゃない、人類未発見の温泉(源泉)を探して”史上一番風呂”に入ります。

「湯沢」には温泉があるに違いない。【川の名前で野湯探し】

湯沢 温泉 日本全国

全然温泉を探しにいけない。

なんたって東京住みの公共交通機関移動勢である。しかも免許は20代の頃、更新に行けず失効してしまっている。だがこの時代、現地に行かなくてもできることはいくらでもある!というわけで、今回は久しぶりに時間をかけて未到温泉を見つけるための研究を行なったのでその報告をしていこう。

全国の湯沢を探せば忘れられた温泉が見つかる説

普段、山で未到温泉を探す際に重点を置いているのが”沢”だ。湧いた温泉は沢に流れ込んでいるだろうし、すでに見つかっている野湯も沢沿いにあるパターンは多い。そこで温泉探索ではいろんな沢に「もしかして温泉かも」と手を入れて回っている。地図に載っていない沢が山の中には結構あるのだ。

大抵はキンキンの冷水

ここで重要なのが沢や川の名前だ。名は体を表すというが川も例外ではない。幾度となく荒れて被害を出すから「荒川」、くねくねと曲がりくねっているから「千曲川」なのだ。(地名由来の方が多いけど)。そして野湯愛好家ならば経験もあるかと思うが温泉由来と思える名前の沢にでくわすこともある。例えば「硫黄沢」「濁沢」「黒川」「毒水沢」などなど。その中でも特に気になる名前の沢がある。

それが「湯沢」である。

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怪しいどころか温泉そのものなネーミング。温泉が湧いていない限り川に「湯沢」とはどう考えても付けない。温泉以外の由来が想定できないネーミングである。実際、新潟県の「湯沢」町は知られた温泉地だし、長野県の野沢温泉にも群馬県の伊香保温泉にも「湯沢」という名の川が流れている。先日訪れた栃木の野湯【広河原の湯】【湯沢噴泉塔の湯】も「湯沢」という沢沿いにある。湯沢には温泉があるのだ。

湯沢 温泉

「温泉があるから湯沢」が今回の大前提

ということは、だ。

こうは考えられないだろうか。「湯沢」と名がついているのに温泉がない川には人には忘れ去られてしまった温泉がひそかにある、と。かつてそこに温泉が確認されていた時代がないと湯沢とは名付けられないわけで厳密には前人未到の温泉とは言えない。また、今は湧いてないけど昔は湧いていたから湯沢なんだよ、というパターンもあるだろう。が、中にはただ忘れられてしまった温泉や、一回枯れたけど今調べたらまた温泉が湧いてきてます、パターンもあるかもしれない。「湯沢には忘れられた温泉がまだある」説を提唱すべくまずはネット調査を行なった。湯沢という川は日本各地にあるのだが、その所在地と温泉の有無を調べてみたのだ。

宮城・鳴子温泉にも温泉&湯沢あり!

日本の川の名前が全て網羅されているデータベースは見つけることができなかったので、自力で可能な限りの調査を行なった。"可能な限り"というのは普通に検索したり、都道府県によっては県内の川の名前がまとめられていたりしたのでそれを参考にさせてもらった。

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県のHPにあった「福井県河川現況図」。ありがてぇ。

https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/kasen/kasenkanri/fukuikasenpamphet_d/fil/2.pdf

まあ国会図書館で調べました、とかじゃないのでもちろん全ての【湯沢】を見つけることが出来ていないだろうし「周囲に温泉があるかどうか」もなるべく詳しく調べたが正確性にはそこまで自信はない。地形図にも温泉が湧いているところ全てに温泉マークがついているわけではないのだ。

同じエリアの野湯でも温泉記号があったりなかったりする

【調査内容】

・日本全国の「湯沢」と「湯沢っぽい名前の川」が対象

・その沢筋に温泉地や野湯があるかどうかを確認

・川名表記に揺れがある場合は2万5千分の1地形図の名前で記載。

 (※地形図には名前の表記がないものの湯沢という名前だという情報があるものも挙げています)

 

湯俣川とか湯ノ股川とか「湯◯川」は他にもいろんな種類があるだが、しんどすぎるので今回は「湯沢」と湯ノ沢とか湯川とか「湯沢っぽい川」だけにした。なんたって、これだけでも結構な時間がかかったのだ。

 以下に全国の湯沢&湯沢っぽい川を羅列してあるので興味のある方は下記の「日本の湯沢まとめ」をクリックすると開くので見てほしい。(見なくても調査結果はこの後まとめてあります)

「湯沢なのに温泉がない川」はあったのか、以下調査結果です。

 

クリックで表示:日本の湯沢まとめ

【北海道】

北海道勇払郡むかわ町「湯の沢川」

温泉情報なし。

 

北海道留萌郡小平町「湯ノ沢川」

温泉情報なし。 ※地形図に表記はないが中央の川が「湯ノ沢川」らしい

 

 北海道上磯郡知内町「湯の沢川」

…温泉情報なし。 ※地形図に表記はないが中央の川が「湯の沢川」らしい

 

北海道寿都郡寿都町「湯の沢川」

…川沿いにはないが近くに寿都温泉がある。

 

北海道函館市「湯の沢川」「湯の川」

…川沿いに湯の川温泉がある。

 

【青森県】

青森県上北郡東北町「湯ノ沢」

温泉情報なし。下流の平野部には「湯沢」「湯沢平」の地名もある。

 

 

青森県下北郡風間浦村「湯川」

…川沿いに下風呂温泉がある。※中央の川が湯川らしい

 

青森県中津軽郡西目屋町「湯ノ沢」

温泉情報なし。ただこの白神山地エリアにも野湯があるらしい

 

青森県弘前市「湯ノ沢」

…川沿いに嶽温泉の源泉がある。

 

青森県東津軽郡外ヶ浜町「湯ノ沢川」

…下流の海辺に湯の沢温泉がある。

 

青森県むつ市川内町「湯野川」

…川沿いに湯野川温泉がある。

 

青森県青森市「湯ノ川」

…近くに八甲田温泉などがある。

 

【岩手県】

岩手県宮古市小国「湯沢川」

温泉情報なし

 

岩手県二戸市浄法寺町「湯の沢」

温泉情報なし

 

岩手県和賀郡西和賀町「湯之沢」

…沢沿いではないがそばに法師温泉などがある。

 

 【宮城県】

宮城県大崎市鳴子温泉「湯沢」

…鳴子温泉郷・川渡温泉に注ぐ。流域に源泉あり。

 

【秋田県】

秋田県鹿角市町八幡平「湯ノ沢」

…野湯「硫黄取り沢の湯」がある。

 

秋田県鹿角市町八幡平 その②「湯ノ沢」

温泉情報なし

 

秋田県由利本荘市西目町「湯ノ沢川」

温泉情報なし

 

秋田県仙北市田沢湖田沢「湯ノ沢」

…川沿いに乳頭温泉郷「鶴ノ湯」がある。

 

秋田県仙北市田沢湖田沢「湯ノ沢」

…「又口温泉 (見張りの湯)」がある。

 

秋田県湯沢市「湯ノ沢川」

…川沿いに湯ノ沢温泉がある。

 

 秋田県山本郡藤里町「湯の沢」

…川沿いに「湯の沢温泉」がある。

 

秋田県北秋田市「湯の沢」

…川沿いに「湯ノ沢温泉」がある。 ※中央の川が湯の沢らしい

 

秋田県鹿角市「大湯川」

…川沿いに「大湯温泉」がある。

 

【山形県】

山形県鶴岡市「湯ノ沢川」

温泉情報なし

 

山形県東置賜郡高畠町「小湯川」

温泉情報なし

 

【福島県】

福島県白河市大信隈戸「湯沢川」

温泉情報なし ※中央を流れるのが湯沢川らしい

 

福島県会津若松市「湯川」

…川沿いに東山温泉がある。

 

【茨城県】

茨城県久慈郡大子町西金「湯沢」

…湯沢温泉という温泉がかつてあった。現在は鉱泉を温めた「湯恵足ゆ」あり

 ※画面右下から左下に流れているのが湯沢らしい

 

茨城県常磐太田市「湯の沢川」

温泉情報なし ※中央に流れる川が「湯の沢川」のよう

 

【栃木県】 

栃木県日光市川俣「湯沢」

…野湯の湯沢噴泉塔や広河原の湯がある

 

栃木県日光市湯本「湯川」

…川沿いに「日光湯元温泉」がある。

 

栃木県那須郡那須町「湯川」

…川沿いに那須湯本温泉がある。 ※中央の川が湯川らしい

 

栃木県那須塩原市「湯川」

…川沿いに「根室温泉」がある。

 

栃木県那須塩原市「湯川」(※2021/7 追加)

…川沿いに「三斗小屋温泉」がある。 

 

栃木県矢板市「湯川」

…湯沢沿いには温泉情報はない。ただし下流の中川には滝鉱泉などがある。

【群馬県】

群馬県渋川市伊香保町「湯沢川」

…川沿いに伊香保温泉がある

 

群馬県吾妻郡草津町「湯川」

…川沿いに草津温泉がある。

 

群馬県吾妻郡中之条町「新湯川」

…川沿いに四万温泉がある。

 

【埼玉県】

埼玉県飯能市「湯の沢」

…数キロ下流には温泉はあるがこの周辺に温泉情報はなし。石灰鉱山があるが関係があるのかもしれない。 ※中央の沢が「湯の沢」らしい

 

【山梨県】

山梨県北杜市明野町「湯沢川」

温泉情報なし。

 

山梨県南巨摩郡身延町「湯沢川」

…流域に温泉入浴施設「門野の湯」あり。 ※画面を左から右に流れている川が湯沢川

 

 

山梨県南巨摩郡富士川町「湯川」

…川沿いに西山温泉がある。

 

山梨県都留市「湯之沢川」

…川沿いに温泉宿がある。

 

山梨県甲府市「湯川」

…川沿いに「湯村温泉」がある。 ※中央の川が湯川らしい

 

【長野県】

長野県下高井郡野沢温泉村「湯沢川」

…川沿いに野沢温泉がある。

 

長野県千曲市「湯沢川」

温泉情報なし

 

長野県茅野市「滝ノ湯川」

…川沿いに蓼科温泉郷がある。

 

長野県北佐久郡軽井沢町「湯沢川」

…川沿いに星野リゾートでお馴染みの星野温泉がある。

 

長野県南佐久郡南牧村「湯沢川」

…最上流部が「雲上の湯」で有名な「本沢温泉」

 

長野県松本市「湯川」「湯沢」

…川沿いに「白骨温泉」がある。

 

長野県松本市 その2「湯川」

…川沿いにはないが近くに温泉あり。 ※中央の川が湯川らしい

 

長野県木曽郡木曽町「湯川」

…湯川にはないようだが、隣の川筋「鹿ノ瀬温泉」や下流域に「木曽温泉」あり。

 

長野県飯田市「湯川」

温泉情報なし。

 

長野県小県郡青木村「湯川」

…川沿いに「田沢温泉」がある。

 

長野県上田市「湯川」

…川沿いに「別所温泉」がある。 ※中央の川が湯川らしい

 

【静岡県】

静岡県静岡市清水区「湯沢川」

温泉情報なし

 

静岡県榛原郡川根本町「奥湯沢」「湯沢」

…温泉マークのある谷に湯沢という沢があり、寸又峡温泉の源泉がある。

 

【新潟県】

新潟県糸魚川市柵口「湯沢川」

…流域に温泉マークあり。柵口温泉の源泉?

 

新潟県南魚沼郡湯沢町「湯之沢」

…川沿いに苗場温泉がある。

 

新潟県南魚沼郡湯沢町 その②「湯之沢川」

…川沿いに越後湯沢温泉がある。

 

新潟県上越市「湯ノ川」

…近くに鷹羽鉱泉などがある。

 

新潟県西蒲原郡弥彦村「湯川」

…川沿いに源泉あり。 ※中央の川が湯川らしい

 

【愛知県】

 愛知県田原市「大湯川」

温泉情報なし。 ※中央の川が大湯川らしい。

 

【富山県】

富山県中新川郡立山町「湯川」

…川沿いに「立山温泉」などがある。 ※中央の川が湯川らしい

 

【石川県】

石川県金沢市「湯川」

…川沿いに湯湧温泉がある。 ※中央の川が湯川??

 

【和歌山県】 

和歌山県田辺市中辺路町「湯川川」

温泉情報はないが数キロ下流には「湯ノ峰温泉」がある。

 

和歌山県有田郡有田川町「湯川川」

…有田川との接続地点に「しみず温泉」がある。

 

和歌山県東牟婁郡那智勝浦町「湯川」

…川沿いに湯川温泉がある。

 

【奈良県】

奈良県吉野郡十津川村「上湯川」

…川沿いに「上湯温泉」がある。

 

【鳥取県】

鳥取県日野郡日南町湯河「湯河川」

温泉情報なし。

 

 【宮崎県】

 宮崎県えびの市「湯ノ川」

 …川沿いに吉田温泉がある。

 

「忘れられた温泉」はどの湯沢にある?

湯沢と湯沢っぽい川、合わせて全国72ヶ所。正直、調べる前は20ヶ所くらいかと思っていたがそんなにあるのか。そして何よりもまず目につくのが分布の偏りである。

日本 湯沢 地図 MAP

なぜか極端に東高西低なのだ。

「愛知・岐阜・信越」以東を東日本とするなら西と東の割合は【8:64と圧倒的。西日本には温泉イメージの薄い中・四国エリアもあるとはいえ、莫大な源泉数&湧出量を誇る大分・鹿児島・熊本あたりの温泉大国を抱えているにも関わらずここまでの差がつくことにはかなりの違和感がある。僕が東日本から調べていったので西日本のころには集中力が切れていた可能性もある。が、それにしてもこんなに極端に差が出るのは川の名付け方に何か文化的背景の違いがあるのだろうか。大分ではあまりにも源泉数が多くて温泉が湧いてるのが当たり前なので温泉が湧いているを川をわざわざ「湯沢」とは名付けない、とか?不思議である。

湯沢 都道府県 ランキング

一方、湯沢が多い県ベスト3は3位【青森県:7ヶ所】2位【秋田県:9ヶ所】1位【長野県:11ヶ所】だった。秋田には湯沢市があるくらいなのでまだ理解できるが長野に湯沢がありすぎではないだろうか。ちなみに各地の川の名称はこのようになっている。

湯沢 湯沢っぽい川 一覧

東北・北関東・甲信越に集中しすぎてい視認性にかなり難のある一覧表である。例えば長野県の中の内訳は湯沢&湯沢川が5ヶ所、湯川が6ヶ所、滝ノ湯川が1ヶ所(※1ヶ所、湯沢と湯川が同エリアにある)。何となくだが北海道・東北では「湯沢、湯ノ沢」系が多く南下していくほど「湯川」系が多くなる傾向があるように思える。いや何の分析だこれ。

そして「温泉がある湯沢」と「温泉がない湯沢」の数だが72ヶ所中【ある:49ヶ所】に対し【ない:23ヶ所】だった。つまり湯沢という川の3本に1本は温泉がないのだ。これは多い。多すぎるぞ!「温泉があるから湯沢」という予想を大前提に調査を行なっているのだが心配になってくる多さだ。

※「ない」には数km離れたりすれば温泉がある湯沢も入っている。

いやいや、逆に考えよう。湯沢という川の多くが温泉地に流れていることは分かった。残り23ヶ所の湯沢には忘れられた温泉が眠っている可能性があるということだ。そのうち川の流域全域に渡り市街地や人里になっている5ヶ所を除外しても残りは18ヶ所。18ヶ所もあったら1つくらい温泉があるのではないだろうか。

埼玉県飯能市上名栗湯の沢

例えばこの埼玉県飯能市上名栗、武甲山の麓にある「温泉のない湯沢」。地名としては「湯の沢」という名が地形図では確認できるが川の名前に表記はない。しかし、別のwebサイトで見るとどうやらこの川の名前も「湯の沢」らしい。

湯の沢川 埼玉県 荒川水系 - 川の名前を調べる地図

そしてここには1つ怪しい情報がある。

ホンネの埼玉温泉記 : 武甲山の麓にある湯の沢の温泉の件(民話)

この方のブログを見ると武甲山の麓の「湯の沢」には温泉にまつわる”ある民話”が残っているらしい。

・昔、武甲山の麓にある”影森の湯の沢”には温泉が湧いていた。

・温泉の湯口のそばには「湯の主」と呼ばれる猪が住んでいた。

・何も知らないよそ者の猟師が主を矢で撃ってしまった。

・湯の主は伊香保温泉まで落ち延び、その結果、伊香保にはあふれるほど温泉が湧くようになった。一方で”湯の沢”の温泉はただの水に変わってしまった。

何やら期待の持てる伝説である。

ただ物語の舞台になっている「影森」とは武甲山の北西に現在もある地名なのだが、今回見つけた「湯の沢」は武甲山の南東にある。同エリアだが完全に真逆の方向。伝説に残っている”温泉の湧く湯の沢”がここかどうかは定かではないが興味深い伝説であることに違いはない。俄然、湯沢に興味が湧いてきた。さっそく、日本各地にある「温泉のない湯沢」の1つへ温泉探索へと向かおう。

栃木の湯沢に温泉はあるのか?

「温泉のない湯沢」に温泉はあったのか?

と、順序立てて書いたが実際はこの探索の方が先だった。

4月上旬、向かったのは栃木県矢板市。これまで那須塩原市では何度も源泉探索や野湯巡りをしてきたが矢板市はその那須塩原市と隣接している。那須温泉にも塩原温泉にも近いこのエリア、温泉ポテンシャルは十分にある。

矢板市

矢板市 湯沢

地形図には矢板市の山中、標高700m前後あたりに「湯沢」という表示がある

なぜこの地を選んだかというと湯沢があることに加え、怪しいサーモ反応も近くにあるからだ。一石二鳥の温泉探索エリアである。

矢板市 人工衛星 サーモ画像

 矢板市山中の人工衛星画像を見てみよう。【ポイント2】が「湯沢」だが、サーモ画像では顕著な反応は見られない。ただ経験上、野湯があってもサーモ反応がないということは結構ある。まずは山中に突然現れるサーモ反応である【ポイント1】から調べることにする。

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那須塩原駅で新幹線を降り、在来線で一駅戻って西那須野駅へ。山の中へ進む都合のいいバス路線はないため、タクシーで林道を登り【ポイント1】に近いエリアへアプローチする。…はずだったのだが。

沼代シダブ線 全面通行止め

沼代シダブ線 全面通行止め

嘘でしょ…。

温泉探索にはこれまでも思った通りには進めないトラブルはつきものだったがこんな最序盤に来る?どうしようかと思っていた時、後ろから工事車両がやってきた。話を聞くとやはり工事中なので車は完全に通行止め、ということだが「歩いてなら通ってもいいよ」とのこと。ありがたい。

数年前の台風被害に対する法面工事とのこと

立ち入り禁止看板のところでタクシーを降りて山を1時間ほど登っていくと工事区間に差し掛かった。工事関係者らしき人がいたので会釈をすると「さっき歩いてた人だべ。この先は工事車両が走ってて、あるってると危ないから俺が乗っけてってやっぺよ」と嘘のようなネイティブな栃木訛りで声をかけられた。栃木の人は「 U字工事の栃木弁は強調しすぎ!本当はそんなに訛っていない。」と言うがネイティブ栃木県民の発音は県外の人間からすると完全にU字工事そのものだった。

車に乗せてもらうという話は正直二回くらい遠慮したのだが「危ねっから!乗ってきな!」ということで、工事の責任者らしき方のご好意で工事区間を抜けるまで車で乗せてもらうことに。ただ、問題がある。

栃木弁ネイティブなおじさまのおかげでショートカット

降ろしてもらった場所は本来山に入ろうと計画していたポイントを通りすぎてしまっているのだ。まさか途中で「ここら辺で山に入って温泉を探すので降ろしてください」とは言えなかった。そんなの怪しすぎる。

探索予定ポイントに行くにはあの場所から山に入りたかったのだが

当初予定していたポイントは等高線の間隔が広い非常に山に入りやすそうな、なだらかな地形だったのだが工事区間なので戻ることはできない。地形図を見る限り、この先に尾根があるのでそこから降りられるかもしれない。

急斜面だが降りられなくはなさそう

道のない山中を歩く未到温泉探索では地形図読みが鍛えられる。あの谷へはどこから降りるのが最適か、あの斜面は登れる角度か、地図を読んで安全面と体力と相談して事前にルートを決める。この活動を始めてからかなり経験値を得た。

サーモ反応のあったポイント1へ向かうべく尾根をそろりとつたって谷底へ降りた。

なんだか谷間の岩には一方向に

板状節理 矢板市

ラインが走っている

地質関連には明るくないがこれが板状節理というものだろうか。この辺りは火山である高原山の中腹なので流れ出したマグマが固まったものなのでは。誰も来ないような山奥で変わったものを見つけると興奮する。そしてこの谷間を下っていくと水が湧き出している場所を発見した。たまに遭遇する「沢の始まり」である。これが温泉だったら最高なのだが。

湧水

沢の最上流部となる湧き出しポイントを発見

でもキンキンに冷えた水

まあ普通に水。これまで沢の始まりを見つけては手を入れてきたが毎度毎度、キンキンの水。もう慣れたものである。ただ、沢を歩いて探索しているとさらに気になる点が。

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水がすごく青い

水がエメラルドグリーンのような美しい色をしている。同じ高原山エリアにある「スッカン沢」や「おしらじの滝」といった名所も美しいブルーな水が有名なのでこの沢もその親戚筋に当たるのだろうか。そして周囲の岩を見ると所々、何かの原石のような青緑色をした岩が広がっている。

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割れた岩の表面がめちゃくちゃ青い

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エメラルド的な色合い!

調べる限りこれらは宝石の原石ではなく、グリーンタフ(緑色凝灰岩)という火山の熱によって変性した岩のようだ。水の色自体に色が付いているというより、川底のグリーンタフのエメラルドグリーンが沢の水に反射しているのだろうか。

…とさっきから地質的な話ばかりだが、温泉の気配はない。歩いていて美しい沢なのだが最初の通行止めによるタイムロスもあってこれ以上奥に進んでいる時間がなくなってしまった。実は最初に示した探索ポイント1にはまだ到達していないのだが、今回のメインは「湯沢」だ。そちらの探索に時間を取れるように残念だがここで引き返そう。

もったいないので浸かっておいた。冷たい。

次のポイント「湯沢」へは一旦、山を登ってから下っていくことになる。

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水面に青空を写す八方湖を過ぎ

山の駅 たかはら

「山の駅たかはら」で昼食

山の駅 たかはら あっぷるカツカレー

名産のリンゴが入った「あっぷるカツカレー」がすごく旨かった

前のポイントからぐるっと10kmほど歩き、いよいよ今回の目的地「湯沢」に到着した。

湯沢 矢板市

探索ポイントの目印となる橋に到着

矢板市 湯沢

はっきりと湯沢と書いてある!

今回この栃木の湯沢を選んだ理由は近くにサーモ反応があったりアクセスが比較的容易だったりすることもあるのだが、下流域に鉱泉(冷ための温泉)があるのもポイントだった。つまり、温泉気配のある沢筋であることは間違いない。おまけにここは野湯「甘湯新湯」からもそう遠くない。マジで温泉が見つかるかもしれない。

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湯沢が中川に合流して1kmほど下流には鉱泉がある

湯沢橋は湯沢と中川の合流地点にあるのだが、橋から見下ろした光景は期待と違っていた。

矢板市 湯沢

湯沢に水が流れていない…だと

向かって右が中川方面、左が湯沢方面なのだがどちらも水が流れていない。地形図上はおろか、Googleマップにも川が表示されているのに…。ただ山奥ではあるはずの川が無かったり、ないはずの川があったりするのはよくあることだ。気を落とさず先に進もう。気を取り直して湯沢の終わり地点である湯沢橋から上流に向かって川を遡ること約200m。目の前に何かが現れた。

岩の隙間に何かがある…

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まさかのワンカップ大関

怖い。

なぜここにワンカップが。

これが空のワンカップであれば「なんだワンカップの空き瓶か」で終わる。ワンカップの空き瓶はただのゴミである。しかし未開封のワンカップ、しかも岩の上に意図的に置かれたようなワンカップはめちゃくちゃ怖い。しかも、ここは山道などではない。手つかずの山中に突然現れるワンカップなのだ。「”何か”を鎮めるための捧げ物的なワンカップ」みたいな意味合いが出てきてしまっている。怖い。

矢板市 湯沢

こういう場所を遡ってます

何も見なかったことにして先に進んだのだが、なかなか川に水気が現れない。それどころか岩は大きくなり行く先は険しくなってきている。温泉が湧いていないかの調査にきたのだが水気にさえ出会えないとは。そう思いながらさらに上流方向へ遡ると小さな水の音が聞こえた。 

少量だが水が岩の隙間から滴り落ちている!

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岩の向こうが上流方向。下部分に見える土部分は近くの「赤滝」と同じく赤い色をしている

湯沢で見つけた初の水分!温泉であってくれ、と願い手を入れてみたがこれは案の定ただの水。残念…というか待て待て、何この文字。

謎の「NO.34」

なんの番号だろうか。ちょうどこの水が滴り落ちている箇所にマークされているということは例えば下流からの滝のナンバリングということも考えられるか。いずれにせよそんなに古くないように見える。数十年に渡って人が立ち入っていない、わけではないようだ。

「No.34」の上に這い上がるとまとまった量の水が

その後はしばらく湯沢を遡るも特に目ぼしい発見はなく初の「湯沢探索」は空振りに終わった。温泉がないのになぜ「湯沢」なのか。名付けた人間に問い詰めたいところだ。ただ、もしかすると地元の人ならこの湯沢の名前の理由を知っている可能性はある。そのために今回の探索のゴールはここにしてある。

赤滝鉱泉 秘湯 栃木 矢板市

栃木の秘湯「赤滝鉱泉」

明治期に建てられたという古い家屋が素晴らしい秘湯「赤滝鉱泉」。先ほどの湯沢が中川に合流して1.5kmほど下流にある。ここが”秘湯”と言われる所以がこちらである。

赤滝鉱泉入り口

赤滝鉱泉入り口

赤滝鉱泉入り口 4WD

4WD以外の車は入れない

赤滝鉱泉入り口 4WD

こっちは「ジープ以外の車は無理」とも

赤滝鉱泉は四駆の車でないとたどり着けない温泉なのだ。言うまでもなく「ジープ」というのは4WDの代名詞として使われているだけでジープでなくても四駆なら入れる。昔は四駆の車のことをジープと呼んでいたのだ。この赤滝鉱泉に入浴ついでに湯沢のことを聞いてみよう。

赤滝鉱泉入り口

臨時休業

嘘でしょ。

2日前に「明後日行くんですけど営業されてますか?」と電話もしたのだが…。臨時ということならしょうがないが、一応歩いて坂を降りて赤滝鉱泉を訪ねた。

赤滝鉱泉 飼い犬 とら

飼い犬の「とら」。

玄関を開けると宿の方がいたので「すみません、今日ってお休みですよね?」と声をかけると「いえやってますよ。こないだ電話を頂いた方ですよね」との返答。やってた。【臨時休業】の看板について尋ねると「コロナ禍になってから出しっぱなしにしちゃってるのよね。あはは。」危うく帰るところだった。 

赤滝鉱泉 湯船

めちゃくちゃ雰囲気のある浴室!

赤滝鉱泉 湯船

鉄分を感じる赤い湯。これを薪で沸かしている。最高。

お風呂を1人で堪能したのち、お金を払うついでに湯沢について聞いたみた。

ミウラ「上流の川、湯沢って名前なんで温泉がないか探してたんです。湯沢に温泉があるとかって話は聞いたことはないですよね?」
赤滝「ああ湯沢ね、うちの脇を流れてる。他に山奥に温泉があるって話は聞いたことがないですね。うちも自然に湧き出してるわけじゃなく、掘ってますからね」

ミウラ「そうですか…。え、っていうか湯沢ってもっと上ですよね」

赤滝「いやうちの脇に流れてるのも湯沢ですよ」

 

 嘘でしょ、ここも湯沢なの!?

思いっきり中川って書いてあるけど

赤滝鉱泉を紹介するどのwebサイトにも「中川沿い」と書いてあるのだが、ここに住んでいる人がこの川を湯沢だと認識しているからには何かあるのかもしれない。昔はこの辺りまで湯沢と呼ばれていた、とか。ともかくこの赤滝鉱泉の脇に流れる川が湯沢だとするとこの湯沢は「温泉のない湯沢」ではなくなってしまう。温泉のある川が湯沢なのは普通だ。今回の調査の根底を覆す証言である。

それにここいらの源泉は冷たいので湯沢で見つけたあの水分が温泉かどうか触ってわかるものではない気もする。今回の調査は空振りに終わったが「温泉のない湯沢」は全国にまだまだある。今後も調査していきたい。

 

(※今回は動画はありません)