前人未到温泉

秘湯どころじゃない、人類未発見の温泉(源泉)を探して”史上一番風呂”に入ります。

【磐梯山】Google Earthで見つけた野湯にガスマスク入浴【福島】

磐梯山 中の湯 野湯 登山 ガスマスク 上の湯

百名山である磐梯山の登山道の途中に野湯が湧いているらしい。百名山には火山も多いので、周囲に温泉地や野湯があることは多いが登山道上にあるのは珍しい。どれどれ、と調べていると…いやちょっと待てよ。その近く、登山道からちょっと離れた山の中にすごい怪しいポイントあるんだけど!?しかもネットにそこに野湯があるという情報も見当たらない。これは行ってみるしかないでしょう!

その結果、サムネイルの感じになったレポートです。

磐梯山 野湯 中の湯 温泉

右上は有名な温泉跡(野湯)。その南西にあるのは?…行くしかない!

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福島に行くのは丸四年ぶり。同じく福島県にある百名山・安達太良山の沼尻元湯に行ったときぶりだ。

tori-kara.hatenablog.com

磐梯山 登山

2019年、安達太良山へ向かう途中で見た磐梯山。ついに登れる!

最近では沼尻元湯では野湯ツアーが行われるようになった。野湯が堂々と観光資源となる例は本州では珍しい。ツアー外では硫化水素事故も起こっているので、野湯入浴は安全に。

猪苗代湖と磐梯山はどちらも福島のシンボルだ

福島県民の磐梯山への思いが強すぎる

今回の磐梯山はその安達太良山の隣に位置し、そのすぐ南には猪苗代湖がある。いつも感じるのだが山と湖の組み合わせというのは最高だ。富士山と河口湖、男体山と中禅寺湖、榛名山(榛名富士) と榛名湖…。

やっぱいい。

山から湖を見れば湖を一望できるし、その逆に湖周辺から山を見れば遮るものがない最高のビュースポットになる。しかも、その麓の湖はその山の火山活動によって作られていることも多い。 その山が最高に美しく見れるロケーションを山が自ら作ってるって奇跡的すぎんか? ナルシズム極まれり。今回はありがたく両方を堪能したい。

磐越西線は磐梯町駅あたりで急に蛇行する。これは磐梯山の山麓で高低差が大きいため勾配を緩和させるためらしい。

東北新幹線で郡山に、そこから磐越西線で猪苗代湖方面へ。安達太良山へ向かった時と同じく猪苗代駅で降りてもよかったが、今回は目的の登山口に近いこともあり、二つ先の磐梯町駅で下車。本当なら長いコースでたっぷり百名山を堪能したいが、温泉探索を考えると時間がないのでタクシーで最短距離でピークを踏めるのが人気の八方台登山口へ向かう。

磐梯町駅

改札どこだろうと思って歩いていたら外に出た。そういうタイプの無人駅か。

少し雲に隠れた磐梯山が見える

八方台で降りると駐車場は満車。バスでやって来た団体ツアー客も混ざってかなりの人手だ。まだ紅葉には時期がやや早い段階でこの混雑、さすが福島のシンボル。

磐梯山 八方台

人気の八方台登山口。

登山口には『磐梯山憲章』といえ看板が設置されているのだが(上写真・左から2番目の看板)、最後の文章がすごい。「磐梯山のために、一人一人が自ら考え行動しよう。」だ。

磐梯山憲章(猪苗代町HPより)

オール・フォー・磐梯山の精神。

郷土の誇りとはいえ、何が磐梯山のためになるか常に自問自答し行動を求める、というのはすごい。普通は誰かに『それはさすがに言い過ぎでは‥』となって、なかなかそこまでは言えないだろう。山に関する憲章でいうと他に『富士山憲章』というものがある。

富士山憲章(静岡県HPより)

常識的な内容だ。

世界遺産であり日本のシンボル、特に静岡・山梨内での影響力は磐梯山にもちろん負けていないと思うが、磐梯山憲章まで踏み込んだ文章ではない。磐梯山憲章はいかに磐梯山が地域の方々に愛されているかを表しているのではないだろうか。

登山道の途中にある有名野湯「中の湯」へ

登山口から歩き始めると序盤は緩やかで広い道が続く。なるほどバスでツアー客が来るのもうなづける。紅葉にはまだ早い半端な時期ではあるが視界から人がいなくなることは稀なくらいの人通りがある。

磐梯山 登山道 八方台

美しい登山道。熊注意の標識こそあるけど…

まずは冒頭でも触れた「中の湯」という野湯へ。磐梯山で最も人が多いであろうこのメイン登山道の途中にある有名な野湯だ。中の湯へは登山口から15分もかからず辿り着く。それまで歩いていた樹林帯から突如として露出した岩肌と草だけの異空間が広がる。そこにあるのが「中の湯」だ。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

とても美しい場所

なぜ突然、木々が無くなるかというと、おそらく火山性ガスの影響。ここら辺一帯にはどうも硫化水素をはじめとした火山性ガスが地面から噴出しているようではっきりとした硫黄臭がする。水たまりを見るとジュージューとガスが泡を立てながら吹き出てきているのが確認できる。

磐梯山 中の湯 登山 火山性ガス

泡が発生し続ける水溜まり

この中の湯にはかつて山小屋があり、宿泊や温泉入浴も出来ていたが今から数十年前に廃業。今は廃屋と湧き続けるの源泉だけが残っている「利用されなくなってしまった源泉」タイプの野湯である。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

左奥にあるのが廃墟となった施設

こういうタイプの野湯は「山奥すぎて利用されてない源泉」タイプの野湯とはまた違う趣がある。周囲に残る当時の痕跡が人に愛されていた痕跡というか、人の営みとそれが自然に戻っていく侘しさを感じさせる。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

この池みたいなのが野湯としての中の湯。

この野湯、人通りの多い登山道途中にあって入浴は厳しいという話を目にしていたので、服を脱がず可能なら足湯だけしようと考えていたが、山小屋と源泉の方には規制線が張られていたので、見学だけにとどめた。源泉近くはまるで池が沸騰しているかのような勢いでガスがブクブク沸き上がってきている。確かに見るからに危険そうだ。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

池の最奥はジャグジー状態のブクブク

磐梯山 中の湯 野湯 

めちゃくちゃ人が通ります

藪を漕いで探索目的地へ

ここから目的の場所へいよいよ向かう。地形図をみると例の場所はここから軽い谷を下った先にあるようだ。持ち合わせの熊鈴を全部付け、GPSで位置を確認しながら斜面を下っていく。距離はすぐ近くだし、薮の濃さは全く問題はないのでそう時間はかからなさそうだ。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

右の候補地は今回は行きません。登山道から離れてて熊が怖いので。

この活動であまり東北に来ないのは熊が怖いからだ。この磐梯山エリアには熊出没情報マップが用意されていて、今回はそれをじっくり見てから向かった。磐梯山北部の裏磐梯と呼ばれるエリア、熊天国すぎる。

2023年度の磐梯山周辺の熊目撃情報。ほとんどが北部の「裏磐梯」。怖ぇ。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

薮や木につかまりながら谷を下ります

さて、この野湯だが前人未到温泉の可能性があるのだろうか。事前にきちんと調べると興奮が減じるので『磐梯山 野湯』でだけ検索して中の湯以外にめぼしい情報がないことだけ確認して向かっている。人工衛星サーモ画像も調べたかったが、手持ちのデータにはこの磐梯山周辺が入っていなかったのだ。なのでこの段階では向かってる場所が未到温泉なのかどうか分かっていない。どうやら野湯があるっぽいけどネットに情報がない、そんな場所に行く時の心の高鳴りはなかなか他では体験できないものだ。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

顔にかかったクモの巣を払いながらふと見上げると黄色く色づいた葉っぱが。勇気づけられる。

斜面を下っていくと、谷底が見えてきた。Google Earthで事前に確認していたように、この先に開けた空間があるようだ。そこに到着すれば目的地まではすぐのはず。

谷を降りると開けた空間があるようだ

磐梯山 中の湯 野湯 登山

明るい空間が見えてきた!

薮のある斜面を下るのは神経を使うし、クモの巣も多いし視界も悪いので熊も怖い。でも開けたところまで出てしまえば楽になる。そう思いながら谷を下り切ったのだが…

磐梯山 中の湯 野湯 登山

開けた空間に到着!……あれ!?

磐梯山 中の湯 野湯 登山

むしろすごい薮なんですけど。。

谷を降りきると目の前に広がったのは、自分の背丈を超える草が生い茂った空間。確かに木は生えておらずそれまでの樹林帯とは景色が一変したが、『開けた空間』に見えたのはあくまで人工衛星からみた視点からで、身長174cmの視点から見るとむしろ閉塞感と絶望感を感じる。なるほど、行ってみないと分からないものだ。

磐梯山 中の湯 野湯 登山 薮

ここを進むのか…

しかも足元は所々ぬかるんでいて湿地帯のようになっている上に、草の中にはトゲが生えているものがあり、時々服を掻い潜って肌に刺さる。目的地までは300mほどあるが、これが続くと相当しんどい。そう思いながら歩いていると、程なく視界が突然開けた。 

磐梯山 中の湯 野湯 登山

深い薮からいきなり何もない空間に出た。まるでここだけ草刈りをしたかのようだ

磐梯山 中の湯 野湯 登山

何ここは…

まるで人の手が入っているかのようにここだけ薮がスパッと切れている。あまりに予想外で立ち尽くした。伝わるか分からないが、草刈りが入って手入れがされているような小綺麗さと、前方のぬかるんだ地面のボコボコがまるで大勢の人の足跡かのように見えて少し背筋が寒くなった。人の痕跡があるわけのない山奥で生活感を感じると怖くなる。

下流?方向の景色。茶色のはシダ植物

この場所は目的地方面に向けて軽い登り傾斜がついていて、中央部は水分を含んだ土が露出している。この先に源泉があるとすれば、そこから流れてきた温泉水の成分でここに背の高い植物が生えることができない空間が出現しているのでは。そう考えれば納得がいく光景だ。GPSを確認するともう100mも進めば目的地だ。歩を進めるとこの空間の最奥部に辿り着いた。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

軽く黄色みを帯びて、草さえ一切生えていない山肌。何度も見たぞこういうの。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

目的地、到着しました!

前回の那須もそうだが、野湯を探している時にたまにみるこの黄色い荒地。絶対、硫化水素出てるでしょ。というか、めちゃくちゃ匂いする。ひとまず硫化水素検知器を置いてみた。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

ちょっとだけだけど、出てる。

なるほど出てる!やっぱりね、と思ったが硫化水素を浴びにきたのではない。GoogleEarthを見て想像していたのは温泉がドバドバ流れていて、その析出物で白くなってる源泉地帯だったが白いのは岩肌だった。なんかあまり水気がないぞ。でも下流部があれだけ湿っているのだから湧出もあるはず。水気を辿って探していると側にこんな場所を見つけた。

磐梯山 中の湯 野湯 登山 源泉

ここが水分の一番上流っぽい

磐梯山 中の湯 野湯 登山 源泉

湯船というには浅すぎる「湿った地面」

想像していた水量でもないし温かさも感じないが、白い硫黄の析出物とともにジワジワと水が湧出してきている。これ温泉なのか…?硫化水素検知器を置いてみた。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

置いたら一瞬でアラーム鳴り響いた

硫化水素検知器を湧出場所に置いた瞬間にグイグイ数値が上がり、人間に害のない10ppmをあっという間に上回ってアラームが大音響で鳴り響いた。その数値は最高45ppmを示していた。吸っていると粘膜がやられ、嗅覚が鈍るくらいの硫化水素濃度だ。温度が低い以上、含まれる成分を分析しないと温泉とは断定できないが、これだけの硫化水素とともに湧いている水、これは温泉だろう。今回の探索の湯船はここに決定とします!

磐梯山 中の湯 野湯 登山 源泉

源泉近くは危ないのでガスマスク装着

磐梯山 中の湯 野湯 登山 源泉

入浴しましょう!

磐梯山 中の湯 野湯 登山 源泉

つめたっ!

この磐梯山は国立公園(磐梯朝日国立公園)の一部である。勝手に地面を掘ったりするのはよくないので、この状態のままで入浴させてもらうことにする。冷たいしお尻の一部が浸かるくらいの水量だし、おまけにガスマスクをすると硫黄臭さえしないので温泉に入っている感覚は少ないがGoogleEarthで探して道なき道を歩いて浸かったよくわからない温泉。気持ちよくないはずがない。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

こう見ると温泉要素が少なすぎてただの裸ガスマスクだが…

この場所は一体何なのか?

そもそもこの野湯、前人未到温泉の可能性があるのだろうか?まず気になるのは途中に立ちよった「中の湯」という名の源泉だ。『中』の湯…。普通、地名というのは「上北沢」「下北沢」があるからには「北沢」もある。「東麻布」「西麻布」があるからには「麻布」もある。「中目黒」があるからには「目黒」もある。何か元の地名があってそこからの上(かみ)や下(しも)、そして中(なか)があるのだろう。「中の湯」だって「上の湯」「下の湯」がないとそういう名前にはならないのではないか。結論を言うと、「上の湯」「下の湯」はある。正確には、かつて存在していた。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

「中の湯」の南に「上の湯」、北に「下の湯」があった

(出典:D-30.中の湯 | エリア情報とジオサイト | 磐梯山ジオパーク

かつて磐梯山には「上ノ湯」「中ノ湯」「下ノ湯」と3つの主だった温泉があり『磐梯の湯』と呼ばれていた。上ノ湯が最も古く1648年に開湯、他2つは1872年からそれぞれが湯治場として利用されていた。しかし1888年の磐梯山噴火で上の湯、下の湯は壊滅、中の湯だけが残った。中の湯では生存者もいたしその後また復興したということで、噴火の影響はそれほどじゃなかったのかと思ったが、写真を見ると全然無事じゃなかった。

磐梯山 中の湯 野湯 登山 噴火

噴火後の中の湯。壊滅。よく生存者いたな。

(出典:D-30.中の湯 | エリア情報とジオサイト | 磐梯山ジオパーク

ということは今入浴している野湯は位置的にはかつての上ノ湯という可能性もある。上ノ湯の位置を示す地図と現在位置を比べてみた。

磐梯山 中の湯 野湯 下の湯 上の湯 登山

赤丸が中の湯、黄色丸が入浴位置。灰色丸が上の湯があったと思われる場所。

現在の入浴位置は中の湯の南西であるのに対し、上の湯は中の湯よりも南東にある。どうやら位置は重ならないようだ。しかし、1888年の噴火は現在の五色沼などの地形を作り出す原因となった大規模な噴火で、磐梯山の地形も大きく変わったらしい。噴火の影響で埋まってしまった上ノ湯が別の形で湧出してきているのが今回の野湯なのかもしれない。

磐梯山 中の湯 野湯 登山 ガスマスク 

ここは新・上の湯なのだろうか

磐梯山 中の湯 野湯 登山

確かなことは分からないが現代の「磐梯の湯」に入ることができた

磐梯山 中の湯 野湯 登山 ガスマスク

お湯があまりないのは…予想外だったけど!

…待てよ。「中の湯」の南東といえば、今回は(熊が怖くて)行かなかったがもう1つ探索候補地があった。今の場所よりもっと大きく森が開けていて、同じく地面が露出して白い析出物のようなものが見える。もしかして、あの場所こそが「上の湯」跡地なのでは?

磐梯山 中の湯 野湯 登山 上の湯

もう1つの探索候補は今回の場所より「上の湯」により近いように思う

磐梯山 中の湯 野湯 登山 上の湯

水の流れがあるかはGoogleアースでは定かではないが、白い硫黄成分は確実にある

もう1つの探索候補地が気になってきてしまったが、この場所も登山道からそう離れてないとはいえ熊を考えると長居したくないのでそろそろ戻ろう。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

登山道の途中にある弘法清水小屋。この辺りで他の登山道が合流し、道は狭くなるので一気に混んでくる

その後は「中の湯」まで戻って、そこから山頂方面へ。上へ行くほど狭く急峻になる登山道はツアー客でごった返していた。

磐梯山 中の湯 野湯 登山

山頂は…

磐梯山 中の湯 野湯 登山

座って休む場所もないくらい大混雑!さすが磐梯山

磐梯山 猪苗代湖

帰りは別ルートから。猪苗代湖が一望!

次は長野県の野湯を巡ります。

 

↓【今回のダイジェスト】↓

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