「魔のガラン沢」との出会い、再会
初めて「ガラン沢」の名を聞いたのは10年ほど前。山岳遭難にまつわるネット上の会話でその地名が出てきたのだ。「魔の谷」とも「人喰い沢」とも。そう『遭難の名所』として…!
そのキャッチーな地名と『遭難の名所』という怪しい響きは僕の心の奥隅に残っていた。一方で「そんな場所に絶対に行かないようにしよう」とも思っていた。当然だ。しかし、温泉探索を始めて少ししたころである。いつものように人工衛星サーモ画像を見ていたところ、怪しいサーモ反応のある場所を発見した。人里離れた山深いエリアだし、谷間に沢も流れている。未到温泉の可能性がバッチリ揃うその沢の名前こそが「ガラン沢」だったのだ。あのガラン沢…!決して交わるはずのなかった僕の人生がガラン沢と交わってしまった瞬間だ。
少し調べてみるとガラン沢には野湯があるらしい。未到温泉を探しに行く前から既知の野湯があるとわかったのは残念だが、それはそれで楽しみだ。サーモ画像を頼りにガラン沢に再会したその日から僕のガラン沢への気持ちは「行きたくない」から「いつか行ってみたい」に変わっていた―。お約束の「大っ嫌いなアイツ、でも最近何だか気になる…」である。あいみょんでもかけてOP映像を流したら恋愛ドラマになりそうな導入だ。
とはいえ相手は「魔のガラン沢」。数年前に温泉があると知っていつつ先送りして、今回ついにガラン沢へ向かうことにしたのは、今の自分ならまず遭難を避けられるのでは、と思えたからだ。正確には「遭難しないための経験値と慎重さ」が身に付いたと思えた。ただ『遭難の名所』ということは、遭難事故が多いと分かっていても遭難してしまう、ということだ。それは一体どういうことなのか。そしてそんな魔のガラン沢にある温泉とは。今回は謎の多いガラン沢に向かったものの、辿り着けず敗退した話です。
【1日目】長野の野湯めぐり
ガラン沢は群馬県の奥地、長野県との県境付近にある。火山で言えば草津温泉や万座温泉を有する草津白根山エリアだ。関東とはいえ、どの駅からも遠い山深いエリアのため電車&バスで向かうには日帰りは厳しい。そのため、1日目には他の野湯にも寄りつつ2日目の早朝からガラン沢にアタックすることにした。
群馬県側からのアクセスも考えたが草津から白根山を超えるバスの本数が少ないため、新幹線を使い長野側から向かうことに。それならば、ということでまず降り立ったのは長野駅。ここからバスで最初の目的地である野湯の至近にアプローチできる。県庁所在地の住宅地近くに野湯があるなんてさすが長野だ。
向かった温泉の名は『蚊里田(かりた)鉱泉』。”鉱泉”というのは25℃未満の冷たい温泉のことだ。そしてこの蚊里田鉱泉のすぐ麓には温泉施設がある。
では、この施設が蚊里田源泉を利用しているかというとそうではないらしい。なぜなら蚊里田鉱泉とこの施設の成分がまるっきり違うのだ。こんなに近いのに。
蚊里田源泉近くへは舗装道路も通じているが、例によって山道から登っていく。道路から行くと遠回りになるし山登りできたほうが楽しい。蚊里田の地名の由来になっている蚊里田八幡宮の脇から山を登っていく。
山道は思いのほか整備されていて、途中に立派な手作りルート案内が立てられていたのを見るにトレッキングに使われているのだろう。そんな歩きやすい山道を進んでいると変化が現れた。
なんの変哲もない山の中にいきなり白濁した水が。かすかに硫黄臭もしている。確かに麓の若槻温泉とは泉質が違うようだ。これは近いぞ。さらに進むと周囲の様子がガラリと変わった。
こんなパターン!高温の温泉が湧いていると森の中で突然木が生えていない荒涼な風景に出会うことがあるが、こういうのは初めてだ。植生が変わるとは。この植生の変化は温泉の成分によるものなのだろうか。
源泉はこのシダの森の何ヶ所かにあるようで数本の水路に硫黄分たっぷりの温泉が流れている。このあたりはスギの人工林なのだが、そういう林にはシダが生えやすい。なのでここにシダが生い茂っているのがスギ林のためなのか、温泉の影響なのかは分からないが、調べると「ユノミネシダ」という和歌山・湯の峰温泉で発見され、鉱山跡や温泉地を好んで生えるシダもあるようなので、もしかしたら関係があるのかもしれない。もし、このシダの森が温泉が作り出している景観だとしたら素敵だ。
源泉の湧出箇所をよく見ると頻繁にプクプクと気泡が浮いているのが確認できた。硫化水素を含んでいるのだろう。
下流の水路が真っ白になっていることからも硫黄分はたっぷりなのだろう、源泉の場所に杉の枝が落ちて浸かっていたが見たことのない紫色に変色していた。白、黒、青緑、紫と硫黄による様々な発色を観察できた。
観察をしている間に小雨が降ってきてしまった。11月の長野で小雨、そして冷鉱泉。厳しい環境だが体験してこその野湯。入浴しよう。
湧出箇所に足を踏み入れると、その圧力で地面から押し出された気泡がシュワ~と炭酸飲料のように一気に湧き出してきた。真っ黒い水面に泡が浮いてパチパチ弾ける様子はさながらコーラのようだ。
この流れの下流に白い池があるそうだが、小雨でめちゃくちゃ寒いのと電車まで時間がないので今回はやめておこう。その後、最寄りの駅まで徒歩で向かい電車で須坂駅に。ここで特急に乗り換え終点へ向かう。
次に乗る特急の到着まで少し時間があったのでしばし須坂駅周辺を探索した後、自販機で買った甘いカフェオレを手に待合室に入った。
待合室の前方には『地場産業のご案内』と須坂市で作られている商品が展示されていた。紙コップのカフェオレをフーフーしながら右側から順にぼんやりと見ていたのだが、見終わるかというその時、不思議な光景に気がついた。
待合室の奥に扉がある…?
ええ!?
駅待合室の奥がダンスフロアってどんな間取りだ。なんでこんなことに。毎晩、ドレスやタキシードを抱えた紳士淑女が駅の階段を登り、待合室を通ってここに通っているのだろうか。夜の様子を見てみたいものだ。
さて、明日のガラン沢探索に備えて宿に向かう前にもう一ヶ所立ち寄りたい場所がある。
この辺りには「熊の湯温泉」と「硯川温泉」という2つの温泉地が隣接してして、そのうち硯川温泉がゲンジボタルの生息地だということから「ほたる温泉」に改名。その源泉がこの「平床大噴泉」である。国道と県道が交差する位置にあり、勢いのある白い噴気は遠くからも見えるので菅平エリアでは知られた観光スポットである。『ある男が夢枕で聞いた神様からのお告げ通りに地面を掘ったら温泉が出た』というのがこの平床大噴泉の始まりだと聞いて、奈良時代のエピソードかと思ったら、1991年の話だそうだ。世界観が平成じゃない。
ここに寄ったのはそう、野湯があるからだ。
よくSNSでこの湯船を目にしていて、志賀高原あたりにあるっぽいな、というくらいで詳しく知らなかったのだがここにあったのか。上の噴泉から漏れ出て川に流れていく未利用な温泉を利用して立派な湯船?が作られている。ただ噴泉の裏側にある駐車場に隣接していて丸見えなので服を脱ぐのは躊躇する立地である。
この湯船を見つけて「これか、あのよく見る湯船!!」と思って駆け寄ったのだが、ここで思いもよらないことが起こった。
ピロリ!ピロリ!!ピロリ!!!
デカい音で警告音が鳴り響いた!さっきの蚊里田鉱泉から電源を入れたままになっていた硫化水素検知器である。
え、ここで!?
驚いてザックから検知器を外すと、機械は滅多に見ないレベルの硫化水素濃度を示していた。こんな駐車場脇で!?しかも、まだ湯船からは5mは離れている状態だ。これ湯船あたりどうなってんの?と思い、恐る恐る近寄ってみた。
こんな数値、今まで見たことない。噴気がモクモク出てる横の「かもしか温泉」でも、ガスマスクを着けて入浴した「沼尻元湯」でもこんな数値は出なかった。せいぜい20台。それでもガスマスクなしでしばらくいると目がシバシバした。75.0ppmというと目が結膜炎を起こしてしまうような濃度だ。こんな人里でこんなヤバイ数値が出るとは。驚いていると次の瞬間に検知器の表示がこうなった。
【our】?
『我々は』?機械が自我を持ったのか。一瞬、表示の意味が分からなかった。でも数値が上がっていった後にこの表示、鳴り響くアラート音。どう考えても「測定上限超え」だ。離れてから調べてみると"Over Range"の意味(おそらくovrと表示されている)ようだ。やはり。つまり、この検知器の測定範囲100ppmを超えている。人体に害のない濃度の10倍超え。
【第2章】 第2節 硫化水素中毒の病理と症状|(一財)中小建設業特別教育協会
100ppmというのは即座に死ぬことはないが、長時間晒されることで肺炎や肺水腫になって後に窒息死する可能性もある、とされている危険な濃度だ。こんなフレンドリーな場所で急に命の話。怖いのは現在わかっているのはあくまで「100ppm以上」ということであって、もっと濃度が高いかもしれないということだ。この日は風がほとんどなかったし「測定不能」表示もずっとというわけではなかったので、風がある時なら実際大丈夫なのかもしれないが、入浴する際は十分に注意して欲しい。明日の探索のためにガスマスクを持参していたが、さすがに「測定不能」を見た後に入る気にはならなかったのでそのまま宿に向かった。
【二日目】魔のガラン沢へ
そして翌日。早朝に宿を立ちガラン沢へ探索を開始した。
まずは山をガラン沢に向かって歩いていく。この時点でけっこう緊張感がある。なぜならこの山深い志賀高原エリアは熊の目撃情報がそこそこあるからだ。事前に今回歩く方面に熊出没情報はしばらくないことは確認したが、まだ冬の入り口だし当然それで十分ではない。今回は加えて熊避けの鈴を3種類付けて、少し歩くたびにホイッスルを吹きながら自分の存在をガンガンに知らせながら歩くことにした。
それ以外にも熊スプレーをザックの右側、手の届く範囲に着用している。やれることはやっておきたい。なんたって僕は山で熊に襲われたことがある。熊に対する臆病さは人一倍ある。いや、十倍はある。本当に皆さんも気をつけてほしい。実際に襲われるまではなかなか本気で対策しようとは思えないものだ。でも僕のように山で初めて熊を見た時が初めて熊に襲われた時になってしまうこともある。
シーズンオフで誰もいない山道を登ること一時間。山の尾根に到着した。ここから山の反対側に下っていくとガラン沢のある谷間にたどり着くはずだ。ガラン沢方面への降り口を探していると不穏なものが目に入った。
これが噂に聞くガラン沢の遭難注意喚起貼り紙か。この看板を目の当たりにしたことで「遭難が多い」というネット情報が現実味を帯びて背筋に冷たいものを走らせる。しかも「この先は」と書いてはあるが、ガラン沢はこの貼り紙の背後の深い薮の先、はるか下にある。ガラン沢に降りるきちんとしたルートがあるわけではないのだ。誰も行かないだろうという方向に「この先には行くな」と書いてあるところが余計ミステリアスで怖い。さらに説明書きにはこう説明されている。
『ガラン沢では迷ったと思ったら沢を登って下さい。川を下って麓の部落にたどり着くのは不可能です。本沢の水は、鉱毒が入っており飲めません。』
殺意が高い…。迷って集落を目指して沢を下るうちに地形は厳しくなり進めなくなる。しかも、水も飲めない。これがガラン沢が人を喰うシステムか。
ただ、こういうものがあることは事前にネットで知っていた。知ってはいたが心に来る。とにもかくにも気を引き締めて尾根沿いを進んでいると、今度は「草津峠」に関する説明板があった。長野と群馬を結ぶルートは現在、車道が通っている「渋峠」を越えるルートがメインだが、当時はまだ危険なルートだったのでこの「草津峠」を越えるルートが新しくできたが、その後、荒れ果ててしまった、と。ふむふむ……んん??
…また!
草津峠の歴史的な説明をする文脈から唐突にガラン沢の遭難話。注意喚起はしないといけないがもう板のスペースがない。その結果、急展開でガラン沢の件がインサートされている。それくらい触れなきゃいけない話ということだ。
それだけ危ない場所なのに、そもそもなぜガラン沢に昔から人が入って行くのだろうか。謎は深まる。
いよいよガラン沢に向かって降りていく。
遭難しないためにどうすべきか、また遭難した時のためにどう準備をするか。これはこの活動において重要なテーマなのでこれまで何度かこのブログでも触れてきた。
【道迷い&怪我で遭難しないために】
・登山アプリのGPSで自分の位置を細かく確認
・紙地図とコンパスも予備で装備
・モバイルバッテリー複数持ち
・地図読みスキルを鍛える
・熊鈴&熊スプレー携帯
・硫化水素検知器
・救急セット
・そもそもリスクのある行動を避ける
【遭難した時の備え】
・登山届けはマストで出す
・家族にルートを事前共有
・電波ONで登山アプリを使用して家族やアプリ会社に位置を共有しておく
・ココヘリ加入
・登山保険加入
・防寒具、ビバーク用のシート装備
・食料、水分は余分に持つ
これらは全てやった上でドローン等の撮影機材や風呂桶、場合によっては沢靴やガスマスクを持っていくので荷物はパンパンである。しかし、やってる活動がイレギュラーなだけに対策は万全にしておきたい。
さて、ガラン沢へ下るにはさらにその支流の沢を辿っていく必要がある。今回は地形図を基にルートを2ヶ所ほど考えたのだが、等高線的によりなだらかそうなルートにまず向かうことに。
目をつけていた沢は広くて水量も少なく、想像以上に歩きやすそうだ。沢靴に履き替える必要も今のところはなさそうだ。これスムーズにガラン沢に行けるんじゃない?そして歩き始めてまだ2、3分のその時、前方に白いモヤが微かに見えた。まさか。
岩を回り込んでみると、斜面に丘状のこんもりした部分があり、そこだけ苔が青々しく繁っていた。そこから、ほわほわと湯気が立っているのだ。早くも温泉を発見!よく見るとこんもりとした部分の最上部など数ヶ所から湯が湧き出ているのが確認できる。温泉成分が溜まって盛り上がる、いわゆる「噴湯丘(ふんとうきゅう)」の類いだろうか。
触ってみると温泉は30℃後半くらいでしっかりと温かい。噴湯丘は土と温泉沈殿物が混じりあったような具合で柔らかく、人が登ってしまうと崩れてしまいそうだ。ガラン沢には温泉が少なくとも2箇所あることが確認されている。おそらくその2つ以外にもこういう小さな源泉がガラン沢周辺にはあちらこちらにあるのではないだろうか。
この場所に温泉があることは少なくとも僕はネット上に見たことはなく、人里からも十分に遠い。条件としては前人未到温泉に近いものがあるが、残念なことにこの沢に入る前に人工物が存在していた。そこから遠く離れてない場所なのでさすがに「ここは見つかっていないだろう」と確信を持つことはできない。おそらく既知の源泉だろう。前人未到温泉第一号はおあずけとして記念に入浴はしたいところだが、今日の目的は別にある。先を急ごう。
探索スタート直後に幸先よく見つけた噴湯丘だったが、そこから少し下ったところで目線を上げるとあるものが目に入った。
なぜ、あんな高い位置に看板が掲げられているのか…。写真に撮ってズームして看板を読んでみると…
『あなたはスキーコースから外れており危険です。矢印の方向に進んで下さい。』
おそらくガラン沢の「人喰い」たる所以はこの看板にヒントがある。そう、ガラン沢での遭難はこの看板の周囲が雪に埋もれるような冬季に主に起こっているのだ。このあたりは特別に人気のある登山エリアというわけでもない。なので無雪期に登山客が大勢来るわけでもないし、歩いた限りこの時期であれば迷いやすいような地形でもない。ガラン沢の主食は冬季に自然のままの雪山を滑るバックカントリースキー中に迷い込んだ人間なのだ。
その注意喚起看板を過ぎて歩いていくと目の前に難所が現れた。
難儀そうだが全然降りられないことはない。しかし、万が一がある。それに荷物はかなりの重量なので降りるのもそうだし、登り返すにはもっと苦労しそうだ。むむ…。この段差を前にどうするか少し思案した。ただ、こういう段差を見ると思い出すことがある。なぜ遭難した人が最終的に身動きが取れなくのか、その理由の一つが沢にあるこういう絶妙なサイズの段差(滝)だ。
山での遭難において自分の居場所を"完全に"見失ってしまった時、どうすればいいか?という話は遭難関連のニュースが報じられると、ネット上でよく話題にのぼる。よく見る解は「無理に下らず上へ上へ登れ」だ。精神的・体力的には人里に向かってつい下りたくなるが、登山道はたいてい尾根やピークを通っているので、頂上や尾根に近づくほど登山道に戻れる可能性が高まる。それに電波の通じない山でも、開けた場所であれば携帯の電波がつながる可能性があるし、ヘリでも見つけやすい。
(※もちろん「登る」より先に、来た道を戻り正しいルートを探す事が重要です)
逆に「沢沿いに下るな」とも言われる。実際、沢を辿ればいつか里に着くし飲み水にも困らない。登るより精神的にも楽だ。しかし、山間部の沢がずっとなだらかに続くことはあまりない。小さなものや中くらいの段差、時にはどデカい滝が行く手を阻む。高い滝に当たればまだいい。そのまま降りれないので迂回しようとするか、沢沿いに下る諦めがつく。問題は「無理すれば降りられそうな際どいサイズの段差」だ。そういう段差は降りるのはもし出来ても登って戻るのは困難だ。降りる際に足を挫いたり怪我をしたら致命的だし、その先にデカい滝があるともう進むことも戻ることも出来なくなる。そういう絶妙な高さの段差が一番怖い。
この辺りでバックカントリースキー・スノボ中にガラン沢方面に迷い込むと、あちこちに滝や絶妙な段差があり、一度降りれば登り返す事は難しい。かといって下に下に進んでも集落は遥か先で、どこかで降りることの出来ない大きな段差に当たって身動きが取れなくなる。まるで『返しのついた釣り針』。バックカントリースキー+ガラン沢周辺の絶妙な段差、これがガラン沢で近年も毎年のように遭難が起こる”人喰い”メカニズムのようだ。周囲が雪に埋もれてあの高い位置の看板が役に立つころ、ガラン沢は口を大きく開けて遭難者を待っている。
スキーやスノボではないが、野湯探索もカテゴリとしてはバックカントリー。細心の注意が必要だ。
こういう時に備えてザイル(ロープ)を持っていけばいいという話だが、そこに手を出すとどんどん危険な場所に踏み込んでしまう沼な気がして手を付けずにいる。なので、この微妙な段差を越えてこれ以上進むのは残念ながら諦めることにする。ガラン沢の遭難メカニズムが分かった(気がする)今、危うきに近寄らないことこそが真の護身である。幸い、まだ他にもルートがあるしまだ時間もある。
ここに来る前に第二のルートの入り口だけ事前に確認していたのだが、かなり狭くて"薮み"があった。出来ればこのルートは行きたくない、と思っていたのだがしょうがない。
さっきのルートよりだいぶ辛い。とはいえ、これまでこれの比じゃない鬼のような薮をいくつか体験していたおかげか、さほど困難には感じられない。難路に対する精神力はてきめん鍛えられているようだ。危険の少ないしんどいだけのルートならいくらでも歩こう。進みにくいがさっきのルートより着実にガラン沢に向かい沢を下ることができている。すると今度は少しずつ硫黄臭が漂ってきた。おお!
さっきの噴湯丘があった沢では全く硫黄の気配はしなかったが、今度は辺りが白く染まるくらいしっかりとした硫黄分のある温泉が湧いているようだ。
やはり確認されている場所以外にもガラン沢周辺には色々なところに源泉があるようだ。楽しみすぎる。ここの源泉は冷たかったが、距離的にはガラン沢本流までもう少し。本流に合流すればまもなく目的の温泉があるはずだ。高まる鼓動を感じながらさらに薮をかき分けて進む。
ガラン沢との合流地点まで残り約200m。藪が途切れた、と思いきや目の前に絶望の光景が広がった。
こっちのルートも滝にあたるのかよ!しかもあっちよりしっかりとした高低差だ。…これは考えるまでもなく、さすがにロープなしではどうにもならない。他にも候補となるルートがないわけではないが、今はもう10時半。今から別ルートでガラン沢に向かうには時間が心もとないし、バスの時間もある。残念だが今回はここで諦めざるを得ないだろう。
マジか、もう目と鼻の先なのに。でも仕方がない。それぞれのルートでミニ温泉に出会えた収穫もあったし、ずっと行ってみたかったガラン沢から無事帰れるのだからよしとしようか。(たどり着けてないけど。)
こうしてガラン沢探索は失敗に終わったのだった。
↓【今回のハイライト動画】↓