これまではこの「いらすとやマッピング」活動を通して判明した調査結果を報告してきたが、ここからは個々の使用事例から特筆すべきものを紹介していきたい。引き続き見てタメになる情報は一切ないので暇な人だけ見てほしい。
↓↓↓前編↓↓↓
↑↑↑↑前編↑↑↑
- 栄光の「キリ番」登録使用例
- 「いらすとや看板」という二律背反
- みんなの安全を守る「公的いらすとや」
- 街中の「技巧派いらすとや使い」たち
- 発見難度の高いいらすとや使用例
- 特定困難素材
- 小ネタ集
- 【最後に】
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栄光の「キリ番」登録使用例
1000個以上あるマッピング登録のうち第100号、200号など「キリ番」は特に価値のある事例だけが登録されるというシステムになっている。まずはこのキリ番登録使用例を紹介していこう。
国の真ん中にもいらすとやはいる。登録200号。(食堂は一般の人でも入れる)
有名な撮り鉄スポットなのだろうか。登録400号。
いらすとや素材は親子3人のうち母と子だけ使用。登録600号。
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おそらく上の看板の一世代前のものがこちらの看板。さらにめちゃくちゃ渋い!!!
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「実はこういう活動をしていまして…」と初めて人にこの活動を説明することになった。
「俺でなきゃ見逃しちゃうね」というやつ。
東の「すっきリンパ」、西の「占いサロン・ジャンヌダルク」
いらすとや使用例で多いのはPOPや張り紙での使用だが、それに留まらずお店の”顔”として使われているものや、お金をかけて作られた巨大な看板に自販機ラッピング、道路に公的に設置されたものなど、いらすとやが活躍の場を広げているのが分かる。そんな「きちんとした用途」にフリー素材を使わなくても…と思われる方もいるかもしれないが『これなら公共の場に存在しても問題ないよね』『むしろうちはお店の顔として使いたい』そう思わせるいらすとやのクオリティ&ブランディングを僕は讃えたいと思う。
「いらすとや看板」という二律背反
前項のキリ番使用例でも過半数を占めた「いらすとや看板」。やはりこれを見つけることができた日は嬉しいものだ。しっかりとお金をかけて外部に発注した上で、フリー素材であるいらすとやを使用するというある種の矛盾(?)。二律背反。これが「いらすとや看板」の魅力かもしれない。
いらすとや看板は大きければ大きいほど、きちんと作られていればいるほど発見時の喜びは大きいものだが所沢でこれを発見した時は思わず電車から立ち上がってしまった。
線路沿いに作られた巨大ないらすとや看板。広告用途ではなく、コロナ禍を戦う医療従事者への感謝の意を表す看板である。この広告スペースを管理しているであろう西武グループが出しているものか、それとも他の第三者がこの広告スペースを買って出したのかは分からないが、3m×4mはあろうかというBIGサイズでわざわざ出すところに心意気を感じる。誰かが『応援看板を出そう』と思い立ち、調べるといらすとやに「医療従事者」というピンポイントな素材があって、ここに看板が立った。そういうストーリーを感じた。誰かの”思い立ち”がいらすとやによって形となったのだ。フリー素材を使ったからといって、誰かの心意気が詰まったこの看板の価値は変わらないだろう。そう考えると実は「いらすとや看板」は二律背反などしていない。誰かの”思い立ち”にいらすとやが頼もしくす応えている、それだけなのである。
みんなの安全を守る「公的いらすとや」
キリ番の500号でも出てきたが、自治体や警察が公道上などに設置したいらすとや使用例を「公的いらすとや」と呼んでいる。
税金を使用しているだけに無駄なお金をかけられないという制限と老若男女に受け入れられる柔らかい絵柄が望ましいこと、この2つの条件をいらすとやが満たしたことで生み出された光景である。2015年ごろ、ほぼネットの世界だけで「この時事イラストもうアップしたのかよww」と面白がられていたあのいらすとやが今や住宅街の道路に堂々と掲示されている。想像もつかなかった状況である。
禁止したいことを"感謝"で暗に示すパターン。ポジティブに変換されたマナー啓発がいらすとやに合う。
そんな「公的いらすとや」はおそらく管轄する地域によって担当者が異なっていると思うのだが、場合によってはその担当者の個性を感じられる事例もある。
伝えたいことは「自転車事故」のイラストだけで十分伝わるのだが、交通マナーとは全く関連のない別イラストからもう1人園児を連れてきて組み合わせてある。かなりの技巧派な担当者である。組み合わせが自然すぎて調べるまでは、こういう素材が元からあるのかと思わされていた。あまりに違和感がなくてきっと上司のチェックでもこの担当者の細やかな技は気付かれず、評価されてないと思うのでここで代わりに称えておきたい。
さて、この流れで次からは街中いらすとや使用例の中でもそんな"技巧派"いらすとやユーザーによる作品を紹介していく。
街中の「技巧派いらすとや使い」たち
ここで紹介するのは単にいらすとや素材をそのまま使うのではなく、ひと手前加えてよりクオリティを高めようとする街の”いらすとやクリエイター”たちの作品である。
初級「いらすとや+ひと工夫」
いらすとやクリエイターたちの技にもいろんなものがあるが初級は『使うイラストに何かひと工夫を加える』というもの。最も多いのは「自社ロゴを足す」というパターンだ。
一方で「付け加える」のではなく「トリミング」というパターンもある。イラストの一部をトリミングしている例(※2人いるうちの1人だけ使う、など)は多数あるが、単純に切り取るのではなく、より適切なイラストになるよう加工していたのがこちら。
またいらすとやの背景透過を利用したこんなパターンもある。
「駆け込み乗車はやめましょう」というお願い張り紙。実際のホーム写真といらすとやを組み合わせる手法も面白いが、注目すべきは『駆け込み乗車』というそのまま使えるピンポイントな素材が実はあること。おそらく担当者も気づいているが、クオリティを高めるためにあえて自分で作っている。これこそがいらすとやクリエイターの精神である。
中級「複数素材組み合わせ」
さらに複数のいらすとや素材を組み合わせて表現を広げるクリエイターたちもいる。
こうやっていらすとやを駆使して自分の表現したい事柄を表す"技巧系"に対し、いらすとやの物量で攻める"パワー系"というパターンもある。
上級「妥協なき姿勢」
これまでの初級・中級事例を組み合わせ、さらにプラスアルファの芸術性のある事例がこちら。どの会社に転職してても重宝される腕利きのいらすとやクリエイター達である。
その上、車椅子を押すスタッフの服を実際のユニフォームの色(たぶん)に変えている!素晴らしい細やかさ。
ここまでの2例は色変え加工をしたりロゴを追加したりと、実際の形(=100点)に近づけるためのプロ意識を感じる作品だったが、さらにその先、120点を狙う作品もある。
しかしあえて3素材を組み合わせてオリジナル素材を作る気概!芸術性の高い作品だ。
状況にぴったりの既存素材があるにもかかわらず、あえて手間をかけて自前でいらすとや素材を組み合わせて新しく用意する。このクリエイター精神は全ての社会人が見習うべきプロ意識ではないだろうか。しかも使ってる素材は階段うんぬんと関係のない「一人ぼっち」と、あと僕でも素材特定できないもう1素材。組み合わせる素材も安直ではなくちゃんと捻りを加えている。もしかしたら単に暇だったのかもしれないが…。
そして、さらにその上をいく使用例もある。
ソファには色変更を施し、人物イラストにはハヅキルーペも合成した力作。
これまでに紹介したテクニックを網羅した秀作だが、僕が感銘を受けたのはさらに別の点にある。よく見てほしい。左下の「カフェで仕事・勉強をしている男性」のイラストには照明が描かれているのだがPOPでは消えている。二人が過ごしているこの広い居間の世界観であそこに照明があると違和感があるので、わざわざ消しているのだ。そこまで考えているというだけで作者のプロ意識を感じられるが、まだ終わらない。照明は窓に被っているので単に消してしまうと窓が欠けてしまう。それをどう解決したか。
リビングの窓にカーテンを取り付けるという模様替え、それで照明を隠してある。なんておしゃれな加工なのか。凡百のいらすとやクリエイターは単に吹き出しの追加だけで隠してしまうが、窓にカーテンをつけるという自然な作業に照明を消す効果を付与するギミックはプロである。ネットでたまに見る「意味が分かると怖い話」を解説付きで読んだ時のようなスッキリ感がある。
さらに「いらすとやの凄い使い方」とは少し反れるがこんな素晴らしい事例にも出会った。
これの凄さが分かるだろうか。
西麻布のとあるお店の「10周年記念のお礼」張り紙。知人からたまたま訪れた時に見つけた、と2019年にもらったものだ。この変色具合から考えて"10周年"というのはずいぶん昔の話なんだろうな、と普通は思うだろう。しかしこの店のオープンは2009年なのだ。つまり10周年を迎えたのは発見から少なくとも1年以内で、この紙は貼られたばかり。汚れ感はフェイク。エイジング加工をして「ずいぶん前から張られてる感」を演出している張り紙なのだ。すごい。なんだその気合いは!いつも通う常連だけが「なんでこんな古ぼけた感じなんだよw」と面白がれるという仕組みだろうか。さすが西麻布、遊び心が凝っている。感動して実物を見るために自分でも訪れてしまった。とても美味しい店でした。
芸術的ないらすとやチョイス作品
これまでは街のクリエイター達の「いらすとや素材の使い方」に注目してきたが、いらすとやクリエイター達のセンスが出るのはそれだけではない。どの素材をチョイスして表現するか、ここにも個性が現れる。どういうことかまずは代表例を見て頂こう。
膨大な素材量を誇るいらすとやだが、さすがに「微妙に欲しい素材と違うな」「この素材はさすがにないか」という時はある。そんな時に生まれる絶妙ないらすとや素材の選び方(=いらすとやチョイス)が好きだ。もう少し例を見て頂こう。
それぞれの使用例には各クリエイターたちが自分の理想に近づけるためにいらすとや内をいろいろ探し回った苦労が透けて見える。その結果絞り出されたいらすとやチョイスが我々の感心を呼び、面白い。ただここまでに紹介した事例はこの素材にたどり着いた理由が推定できる。おそらくそれぞれ「聞く」「鳥」「親指」というワードでいらすとや内検索したのだろう。しかし中にはそんな想像が出来ない異次元のいらすとやチョイスもある。
一体どうやってそんなピッタリの素材を見つけてきたのか。この「歯磨き」のイラストには「アゴ」や「シワ」というワードは入っていないので普通の検索ではたどり着けないはずである。普通に考えて「アゴの下にシワがよる」なんて細かすぎるシチュエーションはいらすとやにもあるはずがない。そんな成功率0%のミッションを成功させているこの人は何者なのだろうか。僕だったら見つけられてない。よく見ると「ポカンと口を開けている」の顔など、その他の項目のいらすとやチョイスも絶妙だ。間違いなく日本でも有数のいらすとやの使い手。いらすとや素材探しのコツをいつか聞いてみたい。
発見難度の高いいらすとや使用例
ここまでクオリティの高いいらすとや使用例を見てきた。そういう使用例を見つけると非常に嬉しいものだが、発見難度の高い使用例を見つけた際にもまた別種の嬉しさがある。そんな使用例を紹介するが、その前にまずは説明しておかないとならないことがある。それは「いらすとやの見分け方」だ。
【いらすとや素材の特徴】
全ての素材に共通しているのは大きく言うと
①輪郭線がない
②描線がパッキリしていない(手ブレ感がある)
の2点。「人物イラスト」に限って言えば
③頬が赤く染まっている
④人物の髪がしましまになっている
という条件も併せて確認すると間違いないだろう。
街中でイラストを使用したPOPや張り紙を見たとき、いらすとや素材かどうかの判別にまず最初に確認すべきは①輪郭線がないことである。実はいらすとやかどうか迷った時にはこれを確認するだけでもかなりふるいにかけられるので是非実践して欲しい。見た目がいらすとやっぽくて輪郭線もない、そんな時はイラストの細部をマジマジと見て②描線がパッキリしていない(手ブレ感がある)を確認しよう。当てはまるようなら、その素材は99%の確率でいらすとやである。
いらすとや判別の方法は実はシンプルなのである。人物イラストに関しては③④の特徴を挙げてはいるが、見慣れたあの特徴的な顔ですぐにいらすとやだと分かる人もいるのではないだろうか。これらのポイントを抑えて「いらすとやだな」という確信を持った上でサイト内でそれらしいワードで検索をかければ素材特定ができるはずだ。
それではここで実際の街中使用例から問題。
【問題】こちらの使用例の中でどの使用例がいらすとやか適切なものを全て選べ
正解はこちら↓↓↓↓↓↓
こういうものをいらすとやで「バイオリン」「ギター」と検索しなくても判別できるようになったらあなたは一人前のいらすとや収集家である。ただ世の中には油断していると僕レベルのいらすとや収集家でさえ見逃してしまいそうな例もある。例えば非常にシンプルなイラストの場合だ。
いらすとや探しは「あのイラスト、いらすとやっぽいな」という気付きから【いらすとや鑑定】に移るものだが、シンプルなイラストはいらすとやの特徴が薄くそのアンテナにひっかかりにくい。このソフトクリームの素材はふんわりしたテイストにまだ"いらすとや感"を感じとれるが、さらに難しいパターンもある。
いらすとやの人物素材であればまだしも、こういうよく見るトイレピクトや非常口マーク、注意の!マークがいらすとやかもしれない、と気づくのは日々いらすとやを血眼になって探している者にしかできない。世の中にある文字以外の要素全てを「これ、いらすとやじゃないだろうな?」と疑ってかかる姿勢が必要である。いらすとや意識高い系。とはいえ、世のイラスト全てに気を張るのは難しい、そう思ういらすとや意識のあまり高くない方もいるだろう。そこで覚えておいて欲しいポイントが1つある。『いらすとやはポップ体と組み合わされがち』ということだ。上記の使用例4つのうち1つ目の「ソフトクリームカップ限定トッピングソース」、4つ目下部の「開くドアへお回りください」の文字はポップ体である。ここだけでも二分の一。ポップ体のそばにいらすとやあり。これを覚えておくと発見率が高まる。
そして「世の中にある文字以外の要素全てをいらすとやかどうか疑え」と言ったばかりで申し訳ないが実はいらすとやにはイラストではない素材も存在してしまっている。それは「イラスト文字」と呼ばれる素材である。
上の「駐輪場」は自転車マークとセットなのでまだアンテナにもかかりやすいが、下の「南」「北」はただの文字である。この『イラスト文字』の存在によって、本来、世の中のイラスト要素だけにアンテナを張ればよかったはずが、気づけば文字要素にも注意しないといけない沼に引きずり込まれてしまっているのだ。恐ろしい。世の中の全てにいらすとやは潜んでいる。我々いらすとや収集家にとっては気の抜けない世界となってしまった。
また先ほど紹介した「いらすとやチャート」では判別率は99%と書いたが、残り1%には僕の目からもいらすとやかどうかの判定が難しい素材が存在する。
「orion」の文字感とかめちゃくちゃいらすとや!
輪郭線なし、線のブレもあり、そして何よりいらすとや感のある優しいタッチ。僕の目から見てもいらすとやだと判断して、写真に撮って家で登録作業を行おうとしたのだが、いらすとやを探しても同一素材がない。ここまで来てようやくいらすとやではないことに気がついた。世界は広い。自分の鑑識眼には自信を持っていたのだが、まだまだだった。
この2つの使用例はどちらも「イラスト沖縄」という沖縄系イラストストックサイトの素材からの使用例である。「沖縄専門の無料素材」というニッチさが素晴らしいし、実際、東京で見つけた上記2つの沖縄関連POPがどちらもイラスト沖縄を使用したものだということを考えると沖縄ではものすごいシェアを取っているのかも知れない。沖縄に行ったら注目してみよう。
いらすとや探しの上ではこの「イラスト沖縄」が判別の難敵となってしまうのだが”沖縄オンリー”なのが不幸中の幸いである。もし見つけた使用例が限りなくいらすとやっぽい場合でも沖縄系素材の場合は一歩立ち止まって考える必要がある。この事実を念頭に「いらすとや判別チャート」をアップデートしておいた。こちらをどうぞよろしくお願い致します。
特定困難素材
一方、それだけ日常に”いらすとやアンテナ”を張り巡らせていてもその先にはもう1つの壁がある。いらすとやであることが判別できたとして、それが何の素材か特定する作業に注意が必要だったり特定が非常に難しい使用例もあるのだ。
商品の使い心地を試してもらうためにお店が手作りした工作物だろう。
イラストの手元は隠れていて見えないがタイトルからして掃除機を持っているのだろうことは想像できる。実際いらすとやで検索すると「掃除機をかける男性」という青い服の男性のイラストがあったので登録した。しかし、である。
登録813号は亀戸の町の電気屋「栄電気」。スティッククリーナーの使い心地を試すために使われているボード。使用素材は「掃除機をかける男性」。女性版の素材は男性版より3年早くいらすとやに登場しています。#いらすとや #いらすとやマッピング
— 三浦靖雄 (@torinikukaraage) 2021年8月13日
↓【いらすとやマップ】↓https://t.co/4k8BMlnlvv pic.twitter.com/WQOKspH3Oj
訂正です。よく見たら違いました。
— 三浦靖雄 (@torinikukaraage) 2021年8月13日
使用は「掃除機をかける男性」ではなく「粘着クリーナーを使う人」です。
大変失礼いたしました。このようなことが二度と無いよう、再発防止に努めます。 pic.twitter.com/z08COTArTZ
投稿した後に気が付いた。このイラストの男性、長袖を着ている!顔も同じだし青い服を着ているし掃除機をかけて前かがみだし、疑う余地なく登録してしまっていたが誤りだったのだ。もう一度よく探すと使用されているのは「粘着クリーナーを使う人」のイラストだということが判明。プロとして恥ずかしい特定ミスとなってしまった。
特定する時に注意が必要な場合はまだある。こちらの使用例ではまさかの落とし穴が用意されていた。
そしてそこにどう考えてもバーテンダーなイラストが使われている。
お酒のPOPにこのイラスト。これはもうノータイムでいらすとや検索「バーテンダー」、それが正着だろう。ほらやっぱり「バーテンダー」だ。よし登録しよう。そう思ったが手が止まった。微妙にタッチが違うな…。まとめ前編で書いたが、いらすとやには「マイナーチェンジ素材」というものがある。いらすとや初期にアップされた素材が現在のタッチに書き直されて再アップされているというものだ。その可能性もあるが、念のためもう少し調べてみると真実が明らかになった。
こんなことある?確かにいらすとや内にはほぼ同じイラストだがタッチが違う、という素材があることは知っていた。まさかそれに当たるとは。こういうことがあるので素材特定の際にも細心の注意を払わなくてはならない。
ただ、そういった素材は”注意”でどうにかなる。問題は素材特定しようにも情報量の極端に少ない場合である。
素材特定のセオリーはイラストの特徴、そしてPOPの文字情報からヒントを得ていらすとや検索するというものだが、これは情報が少ない。単に「女性」のイラストとして使われているし、しかもかなりプレーンな女性のイラストだ。胸から上しか見えないし。いらすとやで「女性」で検索しても膨大な素材がヒットするのでその方法で見つけるのは困難だろう。しかし僕レベルになるとこれも特定できる。
使用例をよく見ると、薄くてわかりにくいが真珠のネックレスのようなものを着用しているのが分かる。なので最初は「真珠」「ネックレス」で検索していたのだが、ない。どうも違うようだ。なので次に注目したのは髪の毛だ。普通、いらすとやで描かれるプレーンな女性イラストは肩にかかるミディアム or セミロングくらいの髪の長さなのだが、この使用例では髪が短い。そこで「髪 ショート」で検索した。ビンゴ!こういう素材を特定できるととても嬉しい。真珠のネックレスがミスリードだったとは。
それではこの素材はどうだろうか。
イラスト上の特徴は「おじさん」「手を腰に当てている」「作業服?」「作業服の下はスーツっぽい」、そして文字情報としては動物園に関連した使用例だということ。普通に考えれば「飼育員」かと思ったが飼育員さんのイラストはつなぎを着ていた。その後は「動物園」「作業服」「スタッフ」「腰に手」などでも検索してみたがヒットしない。かなりの苦戦を強いられたので、もう一度作業着の下にスーツを着る人はどんな人なのか考えてみた。そして「事務員」で検索したところ出てきたイラストに以下のものがあった。
年齢やメガネをしていることなど違いはあるが中央の男性はまさに作業着の下にスーツを着ている。素材名は「公務員たち」。そうか、作業着の下にスーツを着ないとならないのは公務員だったのだ。そこで再度「公務員」で検索したところ、ついにこの素材に辿り着いた。
素材特定完了。使用されていたのは「働く人たち」から「公務員」でした。確かに市立動物園なのでこのPOPに使われるべきは公務員だろう。厳しい戦いだった。
さらにこんな事例もある。
登録1012号はお台場海浜公園のマンション「シーリアお台場5番街」の飛び出し注意。「いらすとや看板」の一種ですが、悔しいことに使用している素材僕の手でも判別できません。ほそかわさん(@hosokawa2007)からの画像提供。
— 三浦靖雄 (@torinikukaraage) 2022年3月21日
↓【いらすとやマップ】↓https://t.co/4k8BMl6itv pic.twitter.com/6xU9jNgVal
これは知り合いから送っていただいたいらすとや使用例なのだが「飛び出し」「走る」「追う」で検索しても見つからず一度は特定を諦めたのだが…
画像提供してもらった、ほそかわさん自身の特定により『「いかのおすし」のイラスト』から「すぐにげる」だと判明しました!!!!!!
— 三浦靖雄 (@torinikukaraage) 2022年3月21日
難しい!特定諦めてごめんなさい。 pic.twitter.com/JQAGYmNd6T
写真を送ってくれた本人が素材を特定してくれた。使用は防犯標語「いかのおすし」から「すぐにげる」。「にげる」かー!確かに。この時はかろうじて人の手によって素材特定を行うことができたが、最終的に素材特定できていない使用例が1000個のうち1つだけある。
というお願いだが、いらすとや使用はそれに気が付いた人の方。
単なる青い服を着た女性の横顔。せめて右手がどうなっているのかわかれば素材特定しやすいが、右手と彼女の目線の先にあるはずのものは今回の使用方法とは関係がないらしくトリミングされている。「電話しながら操作している人がいたら通報して」という内容なこと、そして少し口を開いていることから誰かに話しかけているのでは、と推察できるが「話しかける」「呼びかけ」「気付く」「通報」などで検索するも特定できず。この活動唯一の「はてなマーク」でのマップ登録となった。
【追記】
このブログを見てくださった方がコメントで素材を特定してくれていました!検索ワードをどう検討したかも書いてくれています。相談→注意→依頼→客→買い物→質問→訪問でヒット。この素材の情報量から「訪問」を導き出す連想力はすごい!ありがとうございます!
正解は「手術前の訪問」の素材でした。
小ネタ集
ここからはいらすとや使用例収集活動の中から印象に残ったものを単発で紹介していく。
手書きいらすとや
いらすとやを探していると「明らかにいらすとやを見ながら書いた手書きイラスト」が見つかることがある。いらすとや使用例ではないのでマッピング登録はしていないが、こんないらすとや二次創作も味わい深い。
謎のトラブル
いらすとや使用例を探していると「勝手に植物を切らないで」「アルミ風船持ち込み注意」など何かが起こった後に設置されたと想像できるお願い使用例がある。
京王線にある「アルミ風船持ち込みの注意」。けっこうな大事件があった予感…
その中でも特に何が起こったのか想像させるお願い張り紙がこちらだ。
「動物のエサは受け付けていないので、ここに木の実を置かないで」
ちびっこがドングリを集めて事務所に「リスさんのエサにしてください」と置いていく。そんな微笑ましい光景が目に浮かぶ。ただ、それだけでは張り紙は発生しない。わざわざ張り紙をしないとならなくなったということは、扱いに困るくらい大量のドングリが搬入されてしまったのではないだろうか。想像しよう。ある日ちびっこが集めてきたドングリを職員が受け取ったら、翌日からお友達総出でドングリを拾っては届けるようになってしまった。そして右下の「お辞儀」イラストをよく見てほしい。マスク着用お辞儀だ。つまりこれはコロナ禍に入って張られたもの。そう、井の頭自然文化園はコロナ禍で閉園していた時期もあるのだ。つまり閉園の続く動物園の動物たちがお腹を空かせてないかと心配したちびっこによる善意のドングリ支援が行われたのではないだろうか。その結果がこの張り紙なのでは。すべては僕の妄想である。ただ、それくらいのストーリーを感じさせるいらすとや使用例だった。
リクエストした本人のお店?
いらすとや素材の中には利用者からの「こんなイラストがほしい!」という声に応えた『リクエスト素材』というものがある。リクエスト素材にはリクエストした方の名前(ハンドルネーム)が記載されているのだが、一度だけリクエストした本人による使用例(?)と思われるものに遭遇したことがある。
「どうぞこちらへ」シリーズからクマ、猫、ウサギ。
動物だけでもいろんなパターンがある中、ピンポイントでリクエスト素材だけ使っているのは作っている本人がリクエストしたからではないだろうか。このお店にkeiさんご本人がいるのかもしれない。
実は一番見てる素材
なんか見覚えあるんだよなぁ~と思っていたのだが
お前とこんなところで会うとは。旅先で友人にたまたま出会ったような感覚である。
何に使うんだよ素材
いらすとや内には「これどういう時に使うんだよ」という需要の無さそうな素材がたくさんある。それこそがいらすとやの面白さでもあるが、そんな素材が世のいらすとやクリエイターたちによって実際に使われている場面に遭遇するとグッとくるものだ。
謎シチュエーションだが、犬用おやつの商品自体にも貼られている。
初のいらすとや海外使用例登録
いらすとやが日本だけでなく、海外でも使用されていることはSNSで何度も目にしていた。新たなメイドインジャパンである。自分で撮った写真か提供を受けたものしか登録はしないルールなので、今まで海外の事例はこの活動において1つも登録することができていなかったのだが、ついに提供者が現れた。
登録1020号はまさかのドバイから!火鍋店「迪拜九宫阁火锅Nine Squares Restaurant」調味料コーナーマスク着用のお願い。ガチバチさん @gachibachi からの画像提供でいらすとやマッピング初の海外使用例登録!#いらすとや #いらすとやマッピング
— 三浦靖雄 (@torinikukaraage) 2022年4月10日
【いらすとやマップ】↓https://t.co/4k8BMl6itv pic.twitter.com/xhSa6SsvdL
ガチバチさんという方からの画像提供。この活動をたまたま目にしてくれたのだろうか。しかもドバイ!こんな貴重な素材を提供いただき、とても嬉しい限りである。登録1000を超えて初の海外使用例登録となった。
スワローチェーン御用達
クリーニング店というのはキャンペーンのポスターや張り紙がいろいろ張ってあるようで、意外にいらすとや使用例は少ない。たいていは各店で作っているわけではなく、本部からの配布物でからだろう。そんな中でも唯一「スワローチェーン」では本部から配られているであろうキャンペーンのポスターにもいらすとやを使用していことがあり、貴重な存在である。下記はスワローチェーンで3例目のいらすとや使用例の報告なのだが、まさかのリプが飛んできた。
登録837号は八幡山のスワローチェーンの「防犯カメラ作動中」の張り紙。防犯カメラの使用例はこれで前素材中ダントツの10例目!スワローチェーンでの使用例も松原と桜上水に続きこれで3例目、世田谷の店舗に多い?#いらすとや #いらすとやマッピング
— 三浦靖雄 (@torinikukaraage) 2021年9月10日
【いらすとやマップ】↓https://t.co/4k8BMlnlvv pic.twitter.com/HN2LOJz3Gh
よくぞ見つけてくれました…!
— 【公式】せん太くん@クリーニングスワローチェーン (@swallow_chain) 2021年9月17日
本当にいらすとや素材は使いやすいツバ!#いらすとや #いらすとやマッピング
「本当にいらすとや素材は使いやすいツバ!」とスワローチェーンのせん太くん(公式)からコメントが届いた。スワローチェーンのあのキャラ、そんな名前だったのか&そんな語尾なのかと気になる部分が多いが、ともかく完全にいらすとやは御用達のようだ。
ちなみに、ピンク色の女の子ツバメのキャラもいて、そちらの名前は「あらいちゃん」。
池袋クラタセブンの謎
さらに企業アカウントからコメントが届いた中で最も衝撃的だったのはこちら。
twitterアカウントへのリンクに添えられているのは『青い鳥』のイラスト。
登録308号は池袋の質・買取「クラタセブン」の各種SNSのお知らせ。池袋駅で山口もえさんの看板よく見ますが、ここにありました。使われているのは「青い鳥」のイラスト。Twitterのあいつ、こんな顔だったのか。
— 三浦靖雄 (@torinikukaraage) 2019年10月13日
↓【いらすとやマップ】↓https://t.co/eXlUEoyfSQ pic.twitter.com/7c4tFpGpEF
クラタセブンは池袋に行ったことがある人なら誰もが知るお店なのではないだろうか。実店舗を見たことがある人は少ないかもしれないが、池袋駅内のJR改札付近など目立つ位置にずーっと広告を出しているので知名度は高い。「ああ、あの山口もえさんの広告の店ね」と。
…ところが、である。ここにお店の公式twitterからリプが届いた。
☺️.o0(看板の女性は「山川敦子さん」というモデルの方なんです✨よく山口もえさんですか?と聞かれます)
— 質屋クラタセブン@池袋(公式)★正社員募集中★ (@kurataseven) 2019年10月21日
山口もえさん…じゃない?これ、若い頃の山口もえさんじゃないの!?下手したら池袋駅を利用する数十万人が思い違いをしている。もはや、いらすとやとは関係のない話だが衝撃的だったので共有させて欲しい。この方は山川敦子さん。レースクイーンなどで活躍され、その後引退されている。この広告には10年・15年レベルで掲載されていることを考えると、このクラタセブンの広告の女性の正体は山口もえさんではなく「若い頃の山川敦子さん」だ。いらすとやを集めていたことで思わぬ事実を知ってしまった。
サミットストア「買い忘れの歌(朝食編)」
関東地区で展開するスーパー「サミットストア」では店内でオリジナルソングが流れていることがあるのだが、このMVがいらすとやを使用して作られていた。公式でアップされてはいないようなので、たまたま遭遇し撮ったものをおいておく。
サミットストアで流れていた「いらすとや」を使用したオリジナルソングのM V(?)。
— 三浦靖雄 (@torinikukaraage) 2022年4月30日
『買い忘れの歌(朝食編)』
いい歌だしかなり気合入ってます。https://t.co/CF5k8vLej0#いらすとや #いらすとやマッピング pic.twitter.com/DAHR8DgbSg
バイク川崎バイクの反対語
バイク川崎バイクの対義語である。
辺境いらすとや
本州で最も孤立したいらすとや使用例かもしれない。
いらすとや内エラー
いらすとや素材を特定する過程でいらすとや内の文字・イラストのエラーが見つかることもある。重箱の隅をつつくようで申し訳ないが、これだけの膨大な素材量の中で僅かにある非常に貴重な事例である。
『みてるぞ』のアレ
街中でたまに見る「みてるぞ!」「犯罪を見逃さない!」などと書かれた歌舞伎の隈取りが睨みをきかせるアレ。確かに多種多様な種類があるとネットで見たことがあるが、そんなところのシェアにいらすとやが食い込んでいるとは。
「ワンピース」コラボイラストの使用例
いらすとやには漫画「ONE PIECE」の1000話を記念したコラボイラストがある。
あくまでも人気コンテンツ同士の記念コラボであり、フリー素材としての実用性を考えられたものではないが、このコラボイラストの使用例を1000個のうち1つだけ見つけることができた。
今まで使用例が片手で数えられるくらいしかなかった金融機関でまさかのクロコダイルが抜擢。「ここにタバコとゴミを捨ててはいけません!!」とまっとうなことを言うクロコダイル。お前が言うのか。まあ高貴なところあるからマナーには厳しいかもしれない。そして気になるのは『ポイ捨てスパーダ』という謎のキャッチ。クロコダイルの「デザートスパーダ(砂漠の宝刀)」という技が元ネタではあるのだが、たからといって意味は全く分からない謎標語だ(訳:ポイ捨ての宝刀)。しかもこのイラストの技は「バルハン(三日月形砂丘)」。考えれば考えるほど深みにはまるカオスな使用例だった。
26アルファベットキャラ&47都道府県キャラ
この使用例ではAからDまでしか使われていないがZまで全キャラクターがいる。すごいのはそれぞれにそのアルファベットを頭文字に持つワードのキャラが付与されているのだ。A=APPLE,B=BANANAなど。CではCAT(猫)になっているし、DはDOG(犬)になっている。かわいい&勉強になるクオリティの高い素材である。こういうシリーズもののキャラクター素材は他にもあるのだが、特に都道府県キャラはすごい。
それぞれ県のゆるキャラ化されてもいいくらいのクオリティだ。各都道府県キャラはまだ見つけたことがないので今後旅先で注目して探してみたい。
いらすとやのマスコット”ぴょこ”
いらすとやのマスコットをご存知だろうか。知らないとは言わせない。いらすとやのロゴにいる看板キャラだし、サイトのトップにも当然いる。
しかしイマイチ知名度がないような気がするのは僕だけだろうか。あの超有名ないらすとやのマスコットキャラクターとしてあるべき存在感がない。それはこいつらのせいだろう。
最初はいらすとや内の一素材に過ぎなかったが、いらすとやの公式LINEスタンプのキャラクターとして抜擢されてから一気に知名度上がった。もともとはこの動物たちが踊ったりして楽しんでいる”会”としての「パーティ」だったが、インスタでみふねさんが彼らの”ユニット名”として公式に「いらすとやパーティ」という名前を設定していた。
メンバー紹介🐰🐶🐱🐻 pic.twitter.com/MWZyBYqtGn
— いらすとやパーティちゃん (@irasutoyap) 2021年11月20日
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僕も当然大好きなのだが、最後にあえて「ぴょこ」の使用例を紹介して今回の報告を終えよう。1000例中たった3例の「うさぎのぴょこ使用例」だ。
【最後に】
決して世の中の役に立つこのないマップだが、続けられているのは単純にいらすとやが好きだからだ。それは今回紹介したいらすとや使用例のクリエイターたちも同じだろう。いらすとやの何がここまで人を惹きつけるのだろうか。
「ハンパない素材数」「万人受けするかわいい絵柄」「このクオリティで無料」など、いらすとやの凄さを語る切り口はさまざまある。その中でも僕がいらすとやに最も魅力を感じているのはやはり「ユーモア」だ。こういういわゆる”ストックサイト”は現実世界に例えるなら”スーパー”である。普通は品揃えや品質、値段で勝負する。最初に挙げたようにいらすとやはそれら「役に立つこと」は当然兼ねそろえた上で、そこに「ユーモア」の要素を入れた。ストックサイトにユーモア要素を入れるという発想は普通ない。異次元と言っていい。これがいらすとや最大の特徴だと思う。そう考えると、これまで世の中で役に立っている使用例を散々紹介してきたが「元号発表で手話ワイプがかぶったシーン」「ラーメンの油をまとめる人」「AIに支配される人たち」のように利便性皆無の謎素材こそがいらすとやをいらすとやたらしめている存在なのである。そして、そんな常に見る者を楽しませようとする姿勢こそが我々を惹きつけ、結果、世の中にいらすとやが広がった。そう思う。
役に立たないことは軽視されがちだが、時に大きな武器になる。もし武器にならないとしても、そういうことに目を向ける余裕を持って生きていきたい。僕自身そう改めて思えた。「役に立たない面白さ」を心にこれからもこの活動を続けていきたい。
ミウラ
Special Thanks いらすとや