前人未到温泉

秘湯どころじゃない、人類未発見の温泉(源泉)を探して”史上一番風呂”に入ります。

【聖地・霧島】見渡す限り湯けむりの大温泉地帯と「人ん家」の野湯【通し川の湯】

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霧島は野湯界における聖地の1つである。

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霧島は野湯好きにとって憧れの地だ

寺社仏閣好きが『いつか四国にお遍路行きたいな』と思うのと同じように、野湯好きは『いつか霧島で野湯を巡りたいな』と思っている。霧島とはそういう存在である。数多くの源泉があり、かつ、それが必ずしも温泉施設として開発されず野湯として残っている。そんな条件が満たされる場所はそうない。

今回もRKB毎日放送「タダイマ!」の企画で行った野湯探索ロケの結果を報告する。

↓【前回の報告】↓

tori-kara.hatenablog.com

『大地獄地帯』の先の天国野湯

前回とは違い今回は未踏の温泉を探すパートはないが、初めての霧島、それだけで心は高鳴る。それに、すでに発見されている野湯を訪れることは未到の温泉探しをする際に重要なヒントになる。この活動では人工衛星で観測した地表のサーモ画像をもとに山の中で未発見の温泉を探しているが、ただ闇雲に探していてはとても見つけることはできない。「どんな場所に温泉が湧いていることが多いのか」を知ることは未発見の源泉を現場で探すのにとても重要だ。

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サーモ画像だけでなくGoogle Earthなどで地形を確認することも大切

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森のど真ん中に温泉が湧いている興奮よ

この人工衛星画像を使った温泉探しは現在webコミックサイト「やわらかスピリッツ」で連載中のまさか『野湯ガール』(15・16話)でも非常にリアル描かれているので是非(無料期間過ぎたらコミックで)!

↓ 15&16話まさかのミウラによる監修回です↓

yawaspi.com

鹿児島空港に降り立って、わざわざ福岡から車でやってきてくれた番組の方々と合流。向かうのは「野湯ガール」作中でも描かれたことのある霧島のとんでもない野湯だ。

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車で舗装のない悪路を尻が浮き上がるくらい揺れながら進む

今回の目的地は危険な場所でもあるので非常に心強い案内人にもご同行頂いた。鹿児島温泉観光課「六三四城」などのwebサイトを運営し、温泉ソムリエ師範でもある六三四さんである。温泉に関してほぼ野湯オンリーの偏った関わりしか持っていない僕でも知っているすごい方である。

www.kagoshimaonsen.jp

またもう1つ重要なポイントがある。この野湯は企業の管理地なのだ。つまり私有地。しかも「霧島錦江湾国立公園」の指定地域でもある。事前に申請を行い許可を取った上で向かった。

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国立公園&私有地!撮影のため許可を得て入っています

ひどい悪路をしばらく進んだ山の中で車を降りると、その一帯にはすでに硫化水素の匂いが漂っていた。GPSを見る限りここからまだ少し距離があるが、さすがはGoogleアースでも確認できるレベルの大源泉地帯だ。六三四さんに聞くと、昔はGPSやGoogleアースもなかったので山の中のこういう硫黄臭を頼りに温泉を探していたという。なんてワクワクする話だ。不便だし危ないが、そういう時代の温泉探しも経験してみたかったな、と思った。匂いを頼りに山を歩き温泉に出逢う感動とはいかほどだろうか。

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確かに風向きによって硫黄臭が強くなる瞬間がある。
昔はこうやって探したのかな、と想像した。

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私有地なのもあって詳しい場所は書けないが、周辺の人工衛星サーモ画像がこちら。山の中に突然、熱反応の高い赤いスポットが現れていることがわかる。温泉地からも近く、しかも地形的に「谷」になっていて野湯を探す上でかなり条件が揃った場所である。

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僕もスタッフの方も一応ガスマスクを携帯している

目指す野湯に向かうには斜面を下っていくことになる。硫黄臭のする方向へ降りていくのは少し緊張感があるが硫化水素検知器にはさほど反応はなく一安心。相変わらず感じる匂いの強さと実際の硫化水素濃度は相関しないものだ。しばらく歩くと木々の合間に白いものが見えた。

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木々の向こうが白く揺れている…!

「白いものが見える」というレベルではない。下のほうに広がる空間自体が白い。ちょっと想像ができない規模の湯煙である。あそこは一体どうなっているのか。見た事のない光景に息を飲みつつ、さらに近づくと一気に開けた空間に出た。

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なんだよ、これ…

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そこは広大な地獄地帯が広がっていた

なんという景色。そこらじゅうから高熱の源泉が湧いていて一帯の表面が見えないほどの湯気が立ち上っている。あまりの光景に立ち尽くした。こういう場所を「地獄地帯」と呼ぶが、本当にあの世にいるような感覚にすらなる。

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この光景が山の中に突然、木々が切れて現れるのだ。

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ドローンで奥を撮るとお湯が溜まっているのが確認できた

危険すぎて近寄れないが中心部は泥火山のようになっていて、熱湯の温泉が湧き出す池(というか沼)のようになっている。うかつに近づくと熱泥部分を踏み抜き大火傷してしまう危険地帯である。雨季にはもっと池のようになるそうだが、冬の間は水量も少ない上にそもそも湯気が覆い水面を見ることさえ難しい。

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山火事ではない。

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煮えた泥が膨らんでは破裂していく様子はずっと見ていられる

紛れもない野湯である。超大規模野湯。ここにドップリと浸かることが出来れば最高なのだがそれはできない。湧いている泥は温度計で計ったところ86℃だった。六三四さん曰く「こんなに広大な源泉地帯だがうまく入ることができるのは一ヶ所だけ」とのこと。この場所を野湯として浸かるにはその"奇跡的な一ヶ所"を見つけなければならない。その場所へと案内して頂く。

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足元の枯れ木の根から湯気がもうもうと立ち上っていた。終末感がすごい

こういう場所は足場が突然崩れて熱泥にハマってしまう可能性もあるので案内してもらえるのは感謝である。何しろこの温泉池の周囲を歩いていると動物の骨がかなり落ちているのだ。普通、山の中でも動物の骨がこう頻繁に落ちているものではない。異常な密度だ。池周辺でも硫化水素濃度は人体に影響のある濃度ではなかったがそれも風の有無やタイミングによるのかもしれない。

しばらくこの温泉池の周囲を歩いていると前を歩く六三四さんが指をさした。

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先ほどと違って穏やかな森の中に青白い筋が

通し川の湯 野湯

目的の野湯「通し川の湯」。美しい。
川の先に見えている白い所がさっきの温泉池だ

森の中に流れる一筋の青白い川。「川」というが流れはほんの微かで非常に穏やかな様相を呈している。先ほどの荒々しい地球の息吹を感じていたからか、その光景とのギャップで余計に神秘的に感じる。地獄地帯とは真反対の天国的な雰囲気。なんて美しいのだろうか。

通し川の湯 野湯

上流方面を見るとなんだか急に「アマゾン感」がある。

 

この場所は通称「通し川の湯」。このエリアには先ほど行った温泉池とは別にもう1つ温泉池があるのだが、この場所はその2つを結ぶ川なのだ。

通し川の湯 野湯

こんなに広大な池なのに入るのは川なのだ

熱い池と池を結ぶ1本の川が湯船になっているとは本当に奇跡的な立地である。この場所を最初に見つけるまでに何人の先人がボッケに足を落としたのだろうか。それではありがたくこの野湯「通し川の湯」を頂こう。

通し川の湯 野湯

川に入ると泥が舞い上がって青白かった湯が灰色に濁るので写真は入浴前に撮るといい。

川の中に足を踏み入れると底にもたっぷりと泥が堆積していることがわかる。そして川底からも源泉が湧出しているようで水面より泥の中の方が温かい。川の中に腰を下ろすと泥の中に体が沈み込んだ。温かい泥に体が包まれてとても気持ちがいい。

通し川の湯 野湯

ふんわりした泥が体を包む

入る前に川岸から計った湯温は33℃。しかし泥の中はもっと温かく適温である。温度もあるし肩まで浸かれる湯量もある。ゆっくりとした流れの中に小さな虫がたくさん見えるのは多少気になるが、素晴らしい野湯である。ただ気をつけなくてはならないのは川の中にも非常に熱い部分があるのだ。その部分の泥を踏み込んでしまうとめちゃくちゃ熱い。

通し川の湯 野湯

こんなに何人も同時に入れる野湯はそうない。

これまで川の野湯にはいくつか入ってきたがこんな静かな温泉沢は初めてだ。優しい泥の感触もあって非常に穏やかな気持ちになる。さすがは聖地・霧島。すごい野湯だ。もし『月刊 野湯』が刊行されたとしたら創刊号の表紙になってもおかしくない。そう思って、なんとなく枠をつけてそれっぽい文言を載せてみたら思ったより表紙だった。

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上質を知る大人のための野湯雑誌 「月刊 野湯」創刊。

あとは帰る前に、こういう泥系の野湯に来たらやっておくことがある。

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表面はざらざらしているが内部はとてもシルキーな泥

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この泥をこうして

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こう。

あの青白かった美しい川がすっかり泥色になって温泉というより「地獄の黙示録のあのシーン」っぽさが出てしまっているが全身でこの野湯を感じることができて大変満足である。

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ごちそうさまでした!

そして翌日、霧島を離れ次の野湯を目指し移動していくことに。ただその道中、前回訪れた熊本の野湯「中湯」に立ち寄ったのだがこれがすごいことになっていた。

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秋には美しかったあの「中湯」だが…

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数ヶ月見ない間に何が起こったのか

秋に訪れた時は湯船の中が美しいエメラルドグリーンに輝いていて感動したのだが、なぜこんな禍々しい姿に…。自分の地元の田舎にあった水が溜まりっぱなしの防火水槽がちょうどこんな感じで藻が生い茂っていたのを思い出した。

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防火水槽にフタがされてないレベルの田舎出身者だけが感じることのできる懐かしさ

 

地元の方に聞くところでは毎年冬になるとこうやって藻が表面を覆うのだとか。野湯というのは季節や年を経るにつれて全く違う様子をみせるのも醍醐味だが、今回は予想を超える変化を見ることができた。

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冬でも温かいので藻もさぞ快適だろう

裏庭に湧き出る「人ん家」の野湯

さてこの日やってきたのはとある方のお宅。なぜここに来たかというと、このお宅の庭に野湯があるからだ。そう、ここは野湯好きなら誰しもが憧れる『野湯付き一戸建て』なのである。

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家主「野湯?ああ温泉ね、こっちこっち。」
(写真は家主を追うスタッフ)

家主に案内されて進んで行くのは庭の隅から伸びる川沿いの細い通路。やはり野湯は川沿いに多い。15mほど歩くとそこには四畳半くらいの空間があった。

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これがAさん宅の野湯。

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つまり「人ん家」の野湯である。

そこには確かに温泉がホカホカと湯気を立てながら湧いていた。最高だ。管があるのは庭の方にある小屋に湯を引いていて、そこで6月~10月くらいまでは湯船を溜めてそこに入浴したり子どもがプール的に遊んだりしているらしい(家の風呂は普通に水を沸かして入っているとのこと)。

ここで気になることがある。この場所に生えているやけに存在感のあるこの植物だ。

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日本の植物らしからぬ大きな葉

ミウラ『これってまさか…』

家主『ああバナナね。』

バナナ!庭に温泉が湧いていてバナナが生えている。おもしろすぎる。むかしこの方の祖父(?)がここにバナナを植えたそうで、60代であるこの家主が『物心ついたときからある』そうだ。

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今は冬なので元気がないが夏場は青々と茂るそう

九州とはいえこの辺りは標高もそこそこあり冬は冷え込むそうだが、この源泉地帯は温泉のおかげで霜も降りないとか。しかも昔はここに水槽を置いていて、温泉で熱帯魚を育てていたそうだ。庭に温泉が湧いていて、バナナが生えてて熱帯魚が泳いでいる光景、面白すぎる。

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ピンポン玉くらいの大きさで温泉が地面から湧いている

管の先にも源泉はあるが手前の地面からも上写真のように温泉は湧いていて、その湯が一帯に流れ出している。湯船があるわけではないが野湯としてはもう十分だろう。ありがたく頂きたい。

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入浴中

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源泉の温度は33℃

横たわっていた時はとても温かくて半身くらいは入浴している感覚でいたが、今写真を見返すと全然入浴していなかった。「ぬかるみに裸で寝ている人」だ。そしてこの時の気温は5℃。周囲には霜が降りているくらいの寒さなのでなんとかして体をもっと温めたい。

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こちらのパイプからの湯もかけ流しで頂く。
こちらは地面の源泉より少しぬるい。

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コレが「人ん家の庭」野湯

家主に聞くとこの温泉は切り傷や皮膚病に効くらしく、今でもたまに一升瓶で汲みにくる人もいるのだとか。そんなありがたい湯を全身で浴びることができて幸せである。

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ごちそうさまでした。

人ん家のバナナが生えている温泉。こんなシチュエーションの野湯が他にあるだろうか。今回の九州遠征も忘れられない思い出になった。

 

↓【今回のダイジェスト】↓


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